バッテリー技術

CATL、船舶用バッテリーに本格参入 – EV電池との技術的差異と対BYD戦略

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バッテリー技術: CATL、船舶用バッテリーに本格参入 – EV電池との技術的差異と対BYD戦略

世界最大の車載電池メーカーが、海へ向かう。中国・寧徳時代新能源科技(CATL)が2025年中に海洋事業部の規模を倍増させる計画であることが明らかになった。EV用バッテリーで世界シェア約37%を握る同社が、なぜ今、船舶用電池に力を入れるのか。

CATLの海洋事業拡大の背景

36氪の報道によると、CATLは海洋事業部門(Marine Division)の人員・生産体制を2025年内に現行の約2倍に拡大する方針だ。同社はすでに電動船舶向けバッテリーシステムの開発・供給実績を持つが、これまではEV向けが圧倒的な事業の柱だった。

背景には、中国国内のEV市場における価格競争の激化がある。BYDをはじめとする完成車メーカーが内製バッテリーの比率を高めるなか、CATLは車載電池だけに依存しない収益構造の構築を急いでいる。国際海事機関(IMO)は2023年に改定した温室効果ガス削減戦略で「2050年頃までにGHG排出ネットゼロ」を目標に掲げ、2027年には中間目標の具体的規制が発効する見通しだ。船舶の電動化はこの規制強化を追い風に、今後10年で急成長が見込まれる。調査会社IDTechExは船舶用バッテリー市場が2035年までに約350億ドル規模に達すると予測しており、CATLの参入タイミングには合理性がある。

EV用と船舶用バッテリー、技術的に何が違うのか

同じリチウムイオン電池でも、車載用と船舶用では求められる特性が大きく異なる。まず容量のスケールが違う。乗用EVのバッテリー容量は50〜100kWh程度だが、大型フェリーや貨物船では数MWh〜数十MWhに達する。セルを大量に直並列接続するため、セル間のばらつき管理やバッテリーマネジメントシステム(BMS)の設計難度が桁違いに上がる。

耐久性の要件も厳しい。EVの設計寿命が8〜15年であるのに対し、船舶は20〜25年の使用が前提となる。塩害対策も必須で、高温多湿かつ塩分を含む海洋環境では、筐体の防水・防食設計に特別な配慮が要る。振動特性もEVとは異質だ。路面からの高周波振動ではなく、波浪による低周波の揺れや衝撃に耐える構造設計が求められる。

安全基準も異なる。船舶用バッテリーは各国の船級協会(DNV、Lloyd’s Register等)の認証が必要で、熱暴走時の対策は「乗員が逃げ場のない海上」という前提で設計しなければならない。CATLがEV向けで培ったCTP(Cell to Pack)技術や熱管理ノウハウは応用できるものの、そのまま転用できるわけではない。

多角化戦略と船舶電動化の現在地

CATLの海洋進出は、対BYD戦略としても読み解ける。BYDは「垂直統合」を武器に、自社でバッテリーを製造し自社のEVに搭載するモデルを確立した。Blade Battery(ブレードバッテリー)の内製化により、CATLへの依存度は低い。さらにBYDは外販も強化しており、CATLの顧客を侵食し始めている。

CATLは船舶用電池のほか、定置型蓄電システム(ESS)、鉱山用ダンプトラック、航空機用電池の研究開発にも展開を広げてきた。とりわけESSは2024年の売上が前年比で大幅に伸び、車載電池に次ぐ第2の柱に成長しつつある。船舶分野はBYDがまだ本格参入していない領域であり、CATLにとっては競合の少ないうちにシェアを確保し、EV市場の価格競争とは異なる高付加価値事業を育てる余地がある。

船舶の電動化は内航船やフェリーを中心に進んでいる。ノルウェーのフィヨルド航路では電動フェリーがすでに数十隻運航中で、中国でも長江流域の内航貨物船で電動化の実証が相次ぐ。一方、外洋を航行する大型コンテナ船の完全電動化は、現行のバッテリー技術ではエネルギー密度が足りず実現が難しい。当面は港湾内の荷役時にバッテリー電力を使うハイブリッド方式が現実的な選択肢だ。CATLが事業部の規模を倍増させるということは、内航船・フェリー向けの需要が具体的な受注として積み上がっていることを示唆する。同社は2024年にナトリウムイオン電池の量産も開始しており、コスト面で有利なナトリウムイオン技術を船舶用に展開する可能性もある。

日本の海運業界にとっての意味

CATLの船舶用電池事業の拡大は、日本の海運・造船業界にも無関係ではない。商船三井は2050年までのネットゼロエミッション達成を掲げ、沿岸フェリーへのバッテリー搭載を進めている。日本郵船もLNG燃料船に加えて電動化技術の検証を開始した。国土交通省は「内航カーボンニュートラル推進プラン」のもと、内航船の電動化・水素燃料化を後押ししており、2030年までに電動内航船の実用化を目指す方針だ。

日本国内の船舶用バッテリー供給は、現時点では実績が限られる。CATLのような大規模サプライヤーが船舶用電池を量産体制で供給し始めれば、日本の造船会社や海運会社にとって調達先の有力な選択肢となりうる。一方で、エネルギー安全保障の観点から中国製バッテリーへの依存度が論点になる可能性もあり、日本メーカーが船舶用電池の開発で後れを取らないかが問われる局面に入りつつある。

出典

BLADE NOTE編集部
BLADE NOTE編集部

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