中国車のEU輸出100万台突破 – 次の標的は日本か東南アジアか
100万台——中国からEUへの自動車輸出が2025年、初めてこの大台を超えた。欧州自動車工業会(ACEA)が4月2日に公表したレポートによれば、2025年のEU向け中国製自動車の輸入台数は前年比30.7%増の1,006,188台。EU市場に占めるシェアは2022年の5%から7%へ拡大した。
だが、この数字の裏には不穏な空気が漂う。EUは中国製EVに対する追加関税を課しており、今後の伸びが鈍化する可能性は高い。となれば、年間100万台規模の生産余力を抱える中国メーカーが次に狙う「受け皿」はどこか。日本と東南アジアが候補として浮上する。
EU市場の構図——中国が独走、日韓は足踏み
ACEAのレポートが示すのは、中国車の躍進と日韓メーカーの停滞という対照的な構図だ。中国のEU向け自動車輸出は2022年の約58万台から2023年に約77万台、2024年に約77万台と推移し、2025年に100万台の壁を突破した。3年間で輸出台数は約1.7倍に膨らんだ計算になる。
| 国・メーカー | EU市場シェア | 2026年1〜2月販売 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 中国全体 | 7% | — | — |
| 日本全体 | 4% | — | 横ばい |
| 韓国全体 | 3% | — | 横ばい |
| ヒュンダイ・起亜 | — | 143,457台 | ▲8.4% |
| BYD | — | 36,069台 | +162.7% |
BYDはまだ台数ではヒュンダイ・起亜の4分の1程度だが、成長率の差は歴然としている。金額ベースでも中国の対EU自動車輸出は137.2億ユーロ(約158.3億ドル)と前年比4.0%増を維持した。
一方、EUから中国への自動車輸出は43%の急落。欧州メーカーにとって中国市場の縮小は深刻で、貿易不均衡の拡大がさらなる関税強化を招く可能性がある。
EU関税の壁と「100万台の余剰」
EUが中国製EVに課している追加関税は段階的に引き上げられてきた。2023年10月に欧州委員会が反補助金調査を開始し、2024年7月に暫定関税(17.4〜37.6%)を発動、同年10月に確定関税へ移行した。既存の10%関税に上乗せされるため、BYDで27.4%、上汽集団(MG)で45.3%と、メーカーごとに税率が大きく異なる。
ただし、2025年の輸出台数が関税導入後も30%以上伸びた事実は見逃せない。中国メーカーはEU域内での現地生産(BYDのハンガリー工場など)やトルコ経由の迂回戦略を進めており、関税だけでは歯止めにならない構図が見え始めている。
それでも、関税のさらなる引き上げや通商摩擦の激化は現実的なリスクだ。中国の自動車産業が抱える過剰生産能力——年間4,000万台超とも言われる——の「はけ口」として、EU以外の市場開拓は戦略上の必然になる。
日本市場——小さいが象徴的な存在
日本のBEV市場は2025年で約12万台。世界的に見れば小さい。しかし中国メーカー、とりわけBYDにとって日本は単なる販売台数以上の意味を持つ。「品質に厳しい日本で売れている」という事実は、東南アジアやオセアニアなど他市場への信頼材料になるからだ。
BYDは既にATTO 3、DOLPHIN、SEALを日本で展開し、2025年にはSEALION 7やRACCOの投入も控える。欧州でBYDの販売が急拡大している勢いそのままに、日本でもラインナップ拡充を加速させる算段だろう。
日本のEV市場では軽EV(日産サクラなど)が台数の約4割を占める。欧州市場もEVの小型・低価格化が進んでおり、この傾向は中国メーカーの得意領域と一致する。BYDのDOLPHINが363万円〜で展開されているのは、まさにこの価格帯を狙った戦略だ。
東南アジア——本命の巨大市場
台数規模で本命視されるのは東南アジアだ。タイ、インドネシア、マレーシアでは中国メーカーの存在感が急速に拡大している。タイではBYDが2024年に現地工場を稼働させ、右ハンドル車の生産拠点として東南アジア全域をカバーする体制を整えた。
東南アジア市場の魅力は関税障壁の低さだけではない。日本車が長年築いてきた販売網やブランド信頼を、EVシフトという構造転換のタイミングで切り崩せる余地がある。実際、タイのEV市場では中国勢が圧倒的なシェアを確保しつつあり、トヨタやホンダの牙城が揺らぎ始めている。
EU向けが100万台を超えた今、中国メーカーの次の100万台は東南アジアから生まれる公算が大きい。日本市場はその過程で「ショーケース」としての役割を果たすことになる。
中国車のEU進出が一時的なブームではなく構造的な変化であることを、ACEAのレポートは数字で裏付けた。BYDのハンガリー工場は2025年中の稼働を予定し、タイ工場はすでにフル生産体制に入っている。EU・東南アジア・日本という三正面での展開は、もう計画段階ではない。