NIO ES9のステアバイワイヤ技術 – BYDやトヨタbZとの違いを解説
ハンドルとタイヤを物理的につなぐシャフトが消える——。NIOが新型フラッグシップSUV「ES9」の公式画像を公開し、同車にステアバイワイヤ(Steer-by-Wire)技術を搭載することを明らかにした。4月9日のデビューおよび予約販売開始を前に、量産EVにおけるステアリング技術の転換点が近づいている。
ステアバイワイヤの仕組みとES9の狙い
従来の自動車では、ステアリングホイールとタイヤの間を機械的なシャフトが物理的に接続している。ステアバイワイヤはこの接続を排除し、操舵を電気信号に変換してモーターでタイヤを動かす。航空機のフライ・バイ・ワイヤと同じ発想だ。
ステアリングコラムが不要になり、車内レイアウトの自由度が上がる。衝突時にコラムがドライバーに向かって突き出すリスクも消える。ソフトウェアで操舵特性を変えられるため、低速での取り回しと高速での安定性を両立できる。
課題は路面フィードバックの再現だ。機械的な接続がないため「手応え」を人工的に作る必要があり、その自然さは制御ソフトウェアの完成度に左右される。電子系統の冗長性確保も不可欠で、故障時にも操舵を維持するフェイルセーフ設計が求められる。
NIOは2024年末発表のフラッグシップセダンET9で初めてステアバイワイヤを採用した。ES9はそれに続く2車種目だ。独自の「SkyRide」フルアクティブサスペンションも搭載し、足回り全体を電子制御で統合する設計を進めている。
自動運転ハードウェアもET9と同等の構成で、ルーフ搭載LiDARに加えフェンダー両側のワイドアングルLiDAR、4Dイメージングレーダー、フロントデュアルカメラなどを装備する。自社開発チップ「Shenji NX9031」と「NIO World Model(NWM)」を組み合わせた運転支援システムとステアバイワイヤは相性がいい。機械的なステアリング介入が不要になり、システム側の操舵制御がより高精度になるためだ。
パワートレインは900Vの高電圧アーキテクチャを採用。フロント180kW、リア340kWのデュアルモーター構成で、102kWhバッテリーによるCLTC航続距離は580〜620km。NIOの特徴であるバッテリー交換ステーション(BaaS)にも対応するとみられる。
BYD・トヨタbZとの技術比較
量産EVにステアバイワイヤを搭載しているメーカーはまだ少ない。テスラがCybertruckで採用し、トヨタは2023年発売のbZ4X(および兄弟車スバル・ソルテラ)で「ワンモーショングリップ」としてオプション設定した。日本仕様にも設定はあるが、標準装備ではない。
| 項目 | NIO ES9 | トヨタ bZ4X(SbW仕様) | BYD(現行ラインナップ) |
|---|---|---|---|
| ステアバイワイヤ | 標準搭載 | オプション(一部市場) | 未採用 |
| アクティブサスペンション | SkyRide(フルアクティブ) | なし | DiSus-C / DiSus-P(一部車種) |
| 自動運転センサー | LiDAR×3 + 4Dレーダー | カメラ + レーダー | カメラ + LiDAR(一部車種) |
| 電圧アーキテクチャ | 900V | 非公表 | 800V(e-Platform 3.0 Evo) |
| バッテリー容量 | 102kWh | 71.4kWh | 車種による |
BYDは現時点でステアバイワイヤを量産車に採用していない。ただし独自のインテリジェントボディコントロールシステム「DiSus」を展開し、足回りの電子制御には積極的に取り組んでいる。DiSus-Pではエアサスペンションと電子制御ダンパーを統合しており、将来ステアバイワイヤと組み合わせる可能性は十分ある。
トヨタのアプローチは慎重だ。bZ4Xのワンモーショングリップは操舵角が約150度と小さく、据え切りからロック・トゥ・ロックまでの操作がコンパクトになる。ただし、日本のユーザーからは「違和感がある」「慣れるまで怖い」という声がある一方、「駐車が格段に楽になった」と評価する声もあり、好みが大きく分かれている。異形ステアリング(ヨーク型)を採用したことも賛否の一因だ。
NIOがES9でフラッグシップSUVに標準搭載としたのは、bZ4Xのオプション路線やテスラのトラック限定とは異なる戦略だ。同社のプレミアムブランドとしての技術的優位性を示す意図が読み取れる。
日本市場と普及の壁
ステアバイワイヤの普及にはいくつかのハードルがある。
最大の課題は法規制だ。日本を含む多くの国で、操舵系の電子制御には厳格な安全基準が適用される。国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)が国際基準を整備しつつあるが、各国の法整備には時間差がある。
コストも大きい。冗長化のために複数のECU(電子制御ユニット)やモーターが必要で、従来型ステアリングより高価だ。NIOやテスラのようなプレミアム価格帯では吸収できても、300万円台の普及帯に降りてくるには部品コストの低減が欠かせない。
一方で、自動運転技術の進化がステアバイワイヤの普及を後押しする。レベル3以上の自動運転では、システムがステアリングを直接制御する場面が増える。機械的なステアリング系を介さず操舵できるステアバイワイヤは、その基盤技術だ。
NIOは現在、日本への正式参入を果たしていないが、ES9のような技術的フラッグシップが他メーカーの開発競争を加速させる可能性はある。トヨタがbZ4Xで先行したステアバイワイヤが、中国勢の参入で一気に普及フェーズに入るかどうか。ES9の正式デビューは4月9日、価格や詳細スペックの発表が予定されている。