バンコクモーターショーでBYDがトヨタ超え – タイEV市場の勢力図が変わる
トヨタに1600台以上の差をつけて販売首位——。2026年3月末から開催された第47回バンコク国際モーターショー(BIMS)で、BYDが期間中の販売台数トップに立った。EVsmartブログの報告によると、ASEAN最大級の自動車市場であるタイで、日本メーカーのポジションに変化が生じている。
バンコクモーターショーで見えた逆転劇
バンコク国際モーターショーは、タイの消費者が実際にクルマを購入する「商談の場」として機能しており、期間中の受注台数はメーカーの実力を測る指標になる。その舞台で、BYDが2位トヨタを1600台以上引き離して首位を獲得した。
タイはかつて「アジアのデトロイト」と呼ばれ、トヨタ・ホンダ・いすゞなど日本メーカーが生産・販売の両面で大きなシェアを握ってきた。ピックアップトラックとセダンの市場で鍛えた販売網、部品サプライチェーン、ブランドへの信頼。その構図が、EVシフトとともに崩れ始めている。
| 項目 | BYD | トヨタ |
|---|---|---|
| BIMS期間中販売順位 | 1位 | 2位 |
| 差 | 1600台以上(BYDリード) | |
| タイ現地生産 | ラヨーン工場(2024年稼働) | 複数工場(長年の実績) |
| BEVラインナップ | 複数車種(フルレンジ) | bZ4X中心 |
BYDのタイ戦略——現地生産と価格攻勢
BYDがタイで急伸した背景には、明確な戦略がある。2024年にラヨーン県で現地工場の稼働を開始し、輸入関税のハンデを解消した。この工場はタイ国内向けだけでなく、ASEAN域内への輸出拠点としても位置づけられている。
価格設定も攻めている。タイで販売するATTO 3やDOLPHINは、日本勢のBEVと比べて数十万バーツ安い価格帯に収まる。Blade Batteryによる安全性とe-Platform 3.0の走行性能を武器に、品質面でも評価を得てきた。タイの消費者にとって、BYDはもはや「中国の新興ブランド」ではなく、EVの有力な選択肢になっている。
ただし、タイで存在感を増す中国ブランドはBYDだけではない。MG(上汽傘下)はタイBEV市場の初期から参入しており、MG4やMG ZS EVで一定のシェアを確保している。NETAもコンパクトBEVのNETA Vを武器にタイで急速に販売を伸ばし、2025年には中国ブランド内でBYDに次ぐポジションを築いた。長安汽車もDeepblブランドでタイ進出を果たしている。
中国メーカー全体で見ると、タイのBEV市場におけるシェアは2025年時点で約7割に達したとされる。2023年には約5割だったことを考えると、わずか2年で勢力図が大きく塗り替わった格好だ。
日本メーカーのASEAN戦略に生じた課題
タイの新車市場全体は近年縮小傾向にある。景気減速とローン審査の厳格化が響いた。
しかしBEVセグメントだけは前年比で伸びた。市場が縮む中でEVだけが成長する——この構図が、日本メーカーに突きつける問題は具体的だ。既存のICE車で稼いできたディーラー網の再編、EV専用プラットフォームへの投資判断、そして中国勢と正面から競合する価格帯のBEVを出せるかどうか。
トヨタはbZ4Xを投入し、ホンダもe:N1を展開するが、ラインナップの厚みでBYDに及ばない。BYDはコンパクトカーからSUV、セダンまでフルレンジでBEVを揃え、各価格帯をカバーする。対する日本勢は、ICE車の収益構造を維持しながらEVへ移行するという二正面作戦を強いられている。
BYDのラヨーン工場は右ハンドル車の生産に対応しており、タイから日本向け車両を供給する体制も技術的には整っている。BYDは日本でATTO 3(約440万円〜)、DOLPHIN(約363万円〜)、SEAL、SEALIONなどを展開中で、2025年の日本国内販売台数は前年の約2倍に伸びた。タイでの量産効果がコスト削減につながれば、日本での価格競争力がさらに増す展開も考えられる。
モーターショーの受注台数だけで市場全体を語ることはできない。ただし、タイの消費者がショールームで「どのブランドに財布を開いたか」を示す数字としては象徴的だ。日本メーカーがタイで築いた優位性は、エンジン車の時代に構築されたもの。パワートレインがモーターに切り替わるなかで、その優位が自動的に引き継がれるとは限らない。
BYDのタイ工場はフル稼働に向けて生産を拡大中で、2026年後半にはさらに新モデルの投入が見込まれる。
出典
- 第47回バンコク国際モーターショーレポート:BYD編(EVsmartブログ)
- BYD’s Southeast Asia expansion updates(CnEVPost)