NIO自社チップ「神璣」をOnvoに展開——テスラFSDとの設計思想の違い
演算性能1,000TOPS超、5nmプロセス——NIOが自社開発したスマートドライビングチップ「神璣(Shenji)」が、サブブランドOnvoの主力SUVに搭載される見通しだ。
Onvo L90が神璣チップを採用する背景
中国メディア・雷峰網の報道によると、2026年モデルのOnvo L90は、NIOが自社開発した5nmプロセスベースのスマートドライビングチップを搭載する。Onvoは4月3日に2026年型L90を4月21日に正式発表すると告知しており、スマートドライビングシステムの大幅アップグレードとLiDAR搭載バージョンの初導入を予告している。
現在、NIO本体ブランドはすでに全車種で神璣チップへの移行を完了している。一方、OnvoはNVIDIA Orin-Xチップを使い続けてきた。今回の切り替えは、NIOが自社半導体技術のサブブランドへの浸透を加速させる動きといえる。
神璣チップの実力——NVIDIA Orin-X 3枚分の性能
NIOの第1世代チップ「神璣NX9031」は演算性能1,000TOPS超を誇り、累計出荷数は15万基を突破した。ただし、LPDDR5xメモリとの組み合わせが必要で、近年の高性能メモリ価格の高騰がコスト圧力になっている。Onvo製品担当のEric Yu氏はWeibo上で、メモリチップなど部品価格の上昇により、L90のコストが約1万元(約21万円)増加したと明かした。
第2世代チップも控えている。NIOは先月の決算説明会で、より幅広い顧客層を想定した第2世代神璣チップのテープアウト(設計完了)に成功し、量産プロセスに入っていると発表した。同チップも5nmプロセスで製造され、単体性能はNVIDIA Orin-X 3枚分に相当する。しかもNX9031よりコストは大幅に低い。
Onvo L90が最終的にどちらを採用するかは未確定だ。1,000TOPS超のNX9031か、推定約700TOPSの低コスト第2世代か。メモリ価格の上昇幅と車両価格への転嫁をどう折り合わせるかが、選定の鍵になる。
テスラFSDチップとの設計思想の違い
自動運転向け自社チップの開発で先行したのはテスラだ。2019年に投入されたFSD(Full Self-Driving)チップはサムスンの14nmプロセスで製造され、演算性能は約144TOPS。テスラはカメラのみで自動運転を実現する「ピュアビジョン」方式を採り、チップもニューラルネットワーク推論に特化した設計となっている。比較的低い演算性能でも成立するのは、ソフトウェアとハードウェアを垂直統合し、不要な処理を削ぎ落としているからだ。
NIOのアプローチは対照的だ。LiDARを含むマルチセンサー構成を前提とし、膨大なセンサーデータをリアルタイムで処理するため、圧倒的な演算性能を確保する方向に舵を切った。神璣NX9031の1,000TOPS超という数字は、テスラFSDチップの約7倍にあたる。
| 項目 | NIO 神璣 NX9031 | NIO 神璣 第2世代 | Tesla FSD チップ |
|---|---|---|---|
| プロセス | 5nm | 5nm | 14nm |
| 演算性能 | 1,000TOPS超 | 約700TOPS(推定) | 約144TOPS |
| センサー方式 | LiDAR+カメラ | LiDAR+カメラ | カメラのみ |
| 設計思想 | マルチセンサー高演算 | コスト最適化 | ビジョン特化・垂直統合 |
もっとも、チップ単体の演算性能だけでは自動運転の優劣は決まらない。テスラは数百万台規模の実走行データを学習に使えるという圧倒的な優位性を持つ。NIOはハードウェアの余裕で多様なシナリオに対応する戦略を採っており、両社の思想は根本から異なる。
こうした自社チップ開発の背景には、米国の対中半導体輸出規制によるサプライチェーンリスクがある。NVIDIAの高性能チップは輸出制限の対象になり得るため、中国メーカーにとって自社開発は単なるコスト戦略ではなく、事業継続のためのリスクヘッジでもある。中国EV業界では、Xpeng(小鵬汽車)も自社開発の「Turing AIチップ」を低価格セダン2026年型Mona M03に搭載するなど、NVIDIA依存からの脱却が業界全体のトレンドになりつつある。
NIOはチップ事業の収益化も進めている。チップ子会社の神璣半導体は2025年2月に22億元超の初回資金調達を完了し、評価額は約100億元に達した。さらに先月には、パートナーのAxeraと共同開発した新型M97チップを他の自動車メーカーに売り込んでいるとの報道も出ている。神璣チップをサブブランドに展開し、外販まで視野に入れるのは、半導体事業を単なるコストセンターから利益を生む事業へと転換する意図がある。日本でも自動運転チップの内製化はトヨタとルネサスの協業など模索が続いているが、NIOのようにチップ外販まで踏み込む動きは、日本メーカーにとっても今後の競争軸を考える上で示唆的だ。
Onvo L90の正式発表は4月21日。神璣チップのどのバージョンが載るのか、価格設定にどう反映されるのか、具体的な仕様が明らかになる。