ナトリウムイオン電池、2027年にリチウムと同コストへ – 中国メーカーが示す転換点
セルコスト0.3元/Wh——ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池と肩を並べる日が、あと2年ほどで訪れるかもしれない。中国のナトリウムイオン電池メーカー「中科海鈉(Hina Battery Technology)」の李樹軍総経理が、2027年頃のコスト均衡を見込む予測を公表した。
リチウムとナトリウム、コスト曲線が交差する
現時点でリチウムイオン電池のセルコストは0.3〜0.5元/Wh(約0.044〜0.073ドル/Wh)。対するナトリウムイオン電池は0.5〜0.7元/Wh(約0.073〜0.102ドル/Wh)と、まだ割高だ。ただし両者のコスト曲線は逆方向に動いている。ナトリウム側は量産効果で急速に下がり、リチウム側には資源価格の上昇圧力がかかる。李総経理の予測では2027年に両者のコスト帯が交差し、2028年には完全に重なる。2028年以降、ナトリウムイオン電池の生産規模は数百GWhに達し、セルコストは約0.3元/Whまで低下する見通しだ。エネルギー密度も180Wh/kgを超えるとされる。
コスト面に加え、原材料の調達リスクにも差がある。リチウムはチリ・オーストラリア・中国に産地が偏り、2022年には炭酸リチウム価格が1トンあたり60万元近くまで高騰した。現在は10万元前後まで下落しているものの、需給バランス次第で再び乱高下する可能性は残る。ナトリウムは地殻中の存在量がリチウムの約1,000倍。海水や岩塩から安価に抽出でき、調達先を世界中に分散しやすい。
大型トラックで実証 – Hina社「海星」セルの性能
Hina社は3月31日、武漢で開催された業界イベントで大型トラック向けナトリウムイオン電池「海星(Haixing)」セルの実証データを公開した。
| 項目 | 海星セルの性能 |
|---|---|
| 動作温度範囲 | -40℃〜60℃ |
| -20℃での放電容量維持率 | 90%以上 |
| 急速充電サイクル寿命 | 8,000回超 |
| 走行1kmあたりエネルギー消費 | リチウム搭載車比 約15%低減 |
| 航続距離 | リチウム搭載車比 約20%延長 |
-40℃まで動作し、-20℃でも容量の9割を維持できる点は、寒冷地での商用車運用に直結する強みだ。深い放電が可能なため実質的な航続距離が伸び、大型トラックではリチウム搭載車より約20%長く走れたという。サイクル寿命8,000回超は、毎日充放電しても20年以上の計算になる。
CATL・BYDも参入、ナトリウム電池の開発競争
ナトリウムイオン電池の開発はHina社だけの話ではない。業界最大手のCATLはエネルギー密度約175Wh/kgのナトリウム電池プラットフォームをすでに発表済み。BAICは約11分でフル充電できるプロトタイプ(エネルギー密度170Wh/kg超)を開発した。
海外販売150万台を目指すBYDも、充電サイクル1万回を目標にナトリウム電池の開発を進めている。BYDは全固体電池との両輪で2027年頃の実用化を見据えており、次世代電池の選択肢を複数確保する戦略だ。中国当局も2025年にリチウム・ナトリウムなど先進電池技術の開発計画を策定し、高安全性・長時間エネルギー貯蔵システムの推進を打ち出した。国策としてリチウム資源への依存を下げる意図は明確だ。
用途で棲み分け – 乗用車はリチウム、蓄電・商用車はナトリウムへ
ナトリウムイオン電池がリチウムを全面的に置き換えるわけではない。乗用EVのようにエネルギー密度が最優先される用途ではリチウムが主役であり続ける。一方、コストと耐久性が重視される定置型蓄電や商用車、極寒環境での運用ではナトリウムが合理的な選択肢になる。
日本では、トヨタが2027〜2028年に全固体電池搭載車の投入を掲げ、目標エネルギー密度は約500Wh/kgとされる。日産もNASAとの共同研究で全固体電池を開発中だ。ただし全固体電池の量産コストは現時点でリチウムイオン電池の数倍とも言われ、コスト面ではナトリウムイオン電池と勝負にならない。日本の商用車市場に目を向けると、冷凍・冷蔵車や寒冷地の長距離トラックは低温性能とサイクル寿命が死活的に重要だ。もしナトリウムイオン電池が0.3元/Whを実現すれば、こうした領域で中国製セルが有力な調達候補になる。
2027〜2028年のコスト収斂が実現するかどうかは、量産設備への投資規模とリチウム価格の推移にかかっている。Hina社の「海星」セルが大型トラックで示した実証データは、少なくとも性能面での実用水準をクリアしたことを意味する。残る変数はコストだ。