バッテリー技術

EVから12Vバッテリーが消える日——REDSELが示す次世代電力設計

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バッテリー技術: EVから12Vバッテリーが消える日——REDSELが示す次世代電力設計

電気自動車なのに、なぜ鉛の12Vバッテリーを積んでいるのか。EVオーナーなら一度は疑問に思ったことがあるだろう。その「当たり前」を覆す研究が、オーストリアで一つの区切りを迎えた。

なぜEVに12Vバッテリーが必要だったのか

現在のEVは、駆動用の高電圧バッテリー(400Vまたは800V)とは別に、12Vの補機用バッテリーを搭載している。ヘッドライト、ワイパー、ドアロック、車載コンピュータなど、走行以外の電装品はすべてこの12V系統で動く。ガソリン車時代から続く設計をそのまま引き継いだ形だ。

問題は、この12Vバッテリーが意外と厄介な存在であることだ。JAF(日本自動車連盟)のロードサービス出動理由で「バッテリー上がり」は毎年1位を占めており、2023年度の出動件数は約88万件にのぼる。EVでも例外ではなく、補機用12Vバッテリーの劣化による突然死は深刻な問題だ。日本で販売されているBYD ATTO 3やドルフィンは鉛蓄電池ではなくリチウムイオン式の補機バッテリーを採用しているが、部品点数や重量が増えること自体は変わらない。DC-DCコンバータで高電圧から12Vに降圧する機構も必要で、これが故障すれば車両全体が機能不全に陥るリスクがある。

REDSELプロジェクトの狙い——自動運転時代の冗長電源

シリコン・オーストリア・ラボス(SAL)とインフィニオン・テクノロジーズ・オーストリアが中心となった研究プロジェクト「REDSEL」は、この構造的な課題に正面から取り組んだ。2年間の研究期間を経て正式に完了したこのプロジェクトは、冗長型の高電圧・低電圧電気システムアーキテクチャの開発を目的としている。

REDSELが「冗長型」と呼ぶアーキテクチャの核心は、2つの高電圧バッテリー間でアクティブな負荷分散を行う仕組みだ。片方の系統に異常が発生しても、もう一方がバックアップとして即座に切り替わる。いわゆるフェイルセーフ設計で、従来の12Vバッテリーが担っていた「最後の砦」としての役割を、高電圧システム側で吸収してしまう発想になる。

この設計思想が切実さを増すのは、自動運転の文脈だ。レベル3以上の自動運転では、システム故障時に車両を安全に停止させるための冗長電源が不可欠とされている。現状では12Vバッテリーがその冗長系の一部を担っているが、容量も信頼性も心もとない。高電圧系で冗長性を確保できれば、電力供給の安定性は段違いになる。「補機バッテリーが上がって自動運転システムが停止する」という最悪のシナリオを、アーキテクチャのレベルで潰せる。

12Vバッテリーそのものが不要になれば、DC-DCコンバータの簡素化、車両の軽量化(鉛蓄電池で約10kg前後)、部品コスト削減、鉛蓄電池廃棄に伴う環境負荷の低減と、効果は多方面に及ぶ。

実用化への道筋と業界の動き

もっとも、12Vバッテリーの廃止は一筋縄ではいかない。車載電装品のサプライチェーンは12V前提で構築されており、ECU(電子制御ユニット)やセンサー類も12V仕様が標準だ。業界全体で電圧体系を見直すには、部品メーカーを含めた広範な合意形成が求められる。

インフィニオンが研究パートナーに入っている背景には、同社の事業構造がある。パワー半導体の世界大手であり、車載用DC-DCコンバータやゲートドライバICの主要サプライヤーだ。自社製品の市場が縮小するリスクを取ってでも、半導体メーカー側からアーキテクチャ変革を主導しようとしている。

テスラはすでにModel 3/Yの一部で48V補機システムへの移行を進めている。48V化により配線の細径化と軽量化が可能になり、テスラはこれを車両1台あたり数十ドルのコスト削減につなげているとされる。一方、中国メーカーの対応は分かれている。BYDは自社開発のブレードバッテリーとCTB(Cell to Body)技術で車両構造そのものを再設計する方向に注力しており、補機系の電圧変更より車体統合を優先している。NIOは交換式バッテリーという別のアプローチで電力系全体の設計自由度を確保しようとしている。

REDSELのアプローチは、48V移行のさらに先——補機用バッテリーそのものの廃止を見据えた研究として位置づけられる。研究プロジェクトとしては完了したが、量産車への実装時期は明らかにされていない。SALとインフィニオンが次のフェーズに進むかどうかが、実用化の鍵を握る。

日本のトヨタ・日産・ホンダといったメーカーも次世代EVプラットフォームの開発を進めているが、補機系電力アーキテクチャについて踏み込んだ方針を公表した例はまだ少ない。12Vからの脱却は、EVの設計思想そのものが問い直されるテーマだ。

出典

BLADE NOTE編集部
BLADE NOTE編集部

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