BYD 3列シートは日本未導入 – TangとDenza D9の現在地NEW
BYDは2026年7月現在、日本国内で3列シート(6〜7人乗り)モデルを1台も販売していない。
「BYD 3列シート」で検索してもズバリ当てはまる車種名にたどり着けないのは、検索者の調べ方が悪いわけではない。ATTO 3、DOLPHIN、SEAL、SEALION 6、SEALION 7、そして2026年夏発売予定のRACCO——BYD Auto Japanの現行ラインナップは軽EVから中型SUVまで、全車が5人乗り以下で構成されている。中国本国や欧州にはTangやDenza D9という7人乗りの大型車が存在するが、右ハンドルの日本仕様はまだ存在しない。この記事では「なぜないのか」「世界にはどんな車があるのか」「今3列EVが欲しい人はどうすればいいのか」を数字とともに整理する。
BYD日本のラインナップに3列シートがない現実
まず現行ラインナップを乗車定員で並べ直すと、BYDが日本で「3列」というカテゴリーに一切触れていないことがはっきりする。
| 車種 | ボディタイプ | 乗車定員 | 価格(税込) |
|---|---|---|---|
| ATTO 3 | ミドルSUV | 5人 | 418.0万円〜 |
| DOLPHIN | コンパクトHB | 5人 | 299.2万円〜(Long Range 374.0万円) |
| SEAL | セダン | 5人 | — |
| SEALION 6 | PHEV SUV | 5人 | 398.2万円〜 |
| SEALION 7 | BEV SUV | 5人 | — |
| RACCO | 軽EV | 4人(軽枠) | 未定(2026年夏発売) |
7車種のうち最も定員が多いのはATTO 3やSEALION 7の5人乗りで、6人目・7人目の座席そのものが存在しない。BYD全車種の価格・スペック比較を見ても、3列という項目自体が出てこない構成だ。
過去にDenza D9の日本導入が噂されたことはある
2023年当時、ベストカーは「Denza D9が2024年夏にも日本導入、価格帯1,200万〜1,600万円」と報じていた。トヨタ・アルファードの上位互換として期待した読者もいただろう。しかしBYD Japanは2024年3月27日、レスポンスの取材に対し「D9を日本展開する計画は現時点でない」と公式に否定している。期待先行の観測記事が独り歩きした典型例だ。
なぜ3列シート車を後回しにしているのか

2026年1月の東京オートサロンで公表されたBYDの日本投入ロードマップには、RACCO、ATTO2、SEALION 6の追加投入、そしてSEAL6が並んだ。ここにも3列モデルは一台も含まれていない。
BYD Japanはここ数年、価格を抑えたコンパクト〜ミドルクラスで台数を積み上げる戦略を優先している。2023年1月の乗用車事業参入以来、まずATTO 3・DOLPHIN・SEALという主力3車種で認知度を確保し、その後SEALION 6・7、そして軽EV枠のRACCOへと裾野を広げてきた流れを見ると、「万人受けする価格帯を固めてから上を狙う」という積み上げ型の戦略が透けて見える。大型・高価格帯の3列MPVやSUVは、この積み上げが一巡するまで投入順位が後ろに回されている、というのが現状から読み取れる構図だ。
この戦略の背景には、販売網の整備状況もあるとみられる。BYD Japanは乗用車参入時、複数の既存ディーラーグループと提携する形で全国に販売拠点を広げる計画を掲げていたが、2026年半ば時点で公式に確認できる正確な店舗数は本稿執筆時点では判然としない。全長5m級・車両重量2.5t前後になりがちな3列SUVやMPVは、展示スペース・試乗コース・整備ピットのいずれも既存の小型車向け拠点より広い面積を要する。台数の出やすいコンパクトクラスで拠点網と整備体制を先に固め、大型車の取り扱いはその先に置く、というのは自動車ビジネスとしてはオーソドックスな順序でもある。
日本の3列需要はアルファードやセレナなど国産ミニバンが強固に押さえている市場でもある。トヨタ・日産・ホンダは長年かけてこのセグメントに合わせた販売網とアフターサービス体制を築いており、新規参入ブランドが同じ土俵で戦うには認証取得やディーラー体制構築のコストに見合う勝算を描き切る必要がある。BYDがまだその勝算を描き切れていない可能性は小さくない。
この「大型3列車を後回しにする」動きは、実はBYD固有の事情ではなく中国EV勢に共通する傾向でもある。NIOは中国本国で6〜7人乗りSUV「ES8」を展開し、欧州(ノルウェーなど)にも輸出しているが、日本には投入していない。Xpengも3列MPV「X9」を2023年に中国で発売し、香港・マカオや東南アジアの一部市場へ輸出を広げているが、日本仕様は存在しない。Zeekrの大型MPV「009」も欧州や中東への輸出実績はあるものの、日本での販売計画は公表されていない。中国系ブランドが軒並み、日本では小型・普及価格帯を先に固め、大型3列車の投入を保留している構図は、個社の戦略というより「日本の大型ミニバン市場は参入障壁が高い」という業界共通の判断がにじむ状況とも言えるだろう。
BYDが世界で持つ3列シート車の実力

Tang——欧州で売る7人乗りパフォーマンスSUV
BYD Europeの公式ページはTangを「7-seater AWD performance SUV」と明記している。欧州価格はオランダで約67,390ユーロ、ドイツで約69,615ユーロ(現地報道ベース、日本円換算は為替次第で変動するため本稿では割愛)。
2026年に中国で登場した新世代「大唐(Great Tang)」は、航続950km(CLTC)・出力約950馬力・1000V急速充電で約9分といったスペックが報じられている。ここでいうCLTCとは中国基準の走行距離測定方式で、日米欧で使われるWLTC(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)よりも実走行との乖離が大きく、同じ表示航続距離でもWLTC換算では2〜3割ほど短くなる傾向がある指標だ。ただしこれらの数値の出典はautousermanualやfreshmotorsなど信頼性が中〜低い海外メディアに限られ、BYD公式の一次情報では確認できていない。数字だけが独り歩きしている段階とみるべきだろう。
Denza D9——アルファードより大きい高級MPV
BYDとメルセデス・ベンツの合弁ブランド「騰勢/Denza」が展開するD9は、全長5,250×全幅1,960×全高1,920mm、ホイールベース3,110mm。トヨタ・アルファードより全長で255mm長く、全幅も110mm広い堂々としたボディだ。
シート配列は3列7人乗り、6人乗り、2列4人乗りのVIP仕様まで3パターンが用意される。
2026年4月に発売された第2世代は、価格帯35.98万〜46.98万元(1元=約20.7円で理論換算すると約745万〜973万円)、バッテリー容量103.4kWh、CLTC航続620kmを備える。
充電方式には800Vアーキテクチャを採用する。800Vアーキテクチャとは、一般的なEVで使われる400V系よりも高い電圧で駆動・充電を行う方式で、急速充電にかかる時間の短縮や、高出力時の電費(電力消費効率)向上に寄与するとされる技術だ。
ただしこの中国価格の日本円換算は、あくまで中国国内価格をそのまま置き換えた参考値であり、右ハンドル化・輸入諸費用・型式認証費用を含む実際の日本仕様価格を示すものではない点には注意したい。
数字で見る、今買える3列EV・PHEV
BYDが空けている枠を、他ブランドはすでに埋めにきている。中国EVメーカー一覧で見るように中国勢の攻勢は激しいが、日本の3列EV市場では欧州・韓国勢が先行している。
| 車種 | 発売時期 | 乗車定員 | バッテリー/航続 | 価格(税込) |
|---|---|---|---|---|
| VW ID.Buzz Pro Long WB | 2025年6月発売 | 7人 | 非公表(標準版比で拡大) | 997.9万円 |
| Kia PV5 Passenger | 2026年発売 | 最大7人(可変シート) | 71.2kWh/WLTC 521km | 679万円〜 |
| Denza D9(中国参考価格) | 2026年4月中国発売 | 6〜7人 | 103.4kWh/CLTC 620km | 約745万〜973万円(理論換算・日本未発売) |
Kia PV5 Passengerはシートを2-3=5人、2-2-2=6人、2-3-2=7人、2-0-3=荷室優先の5人と組み替えられる可変性が売りで、価格も679万円からとID.Buzzより手が届きやすい。BYDブランドで3列が欲しいユーザーは、現時点ではこの2台か、国産ガソリン・HVミニバンに流れるしかないのが実情だ。
日本市場という視点——補助金と入手性
現行BYD車のCEV補助金は、2026年4月登録分から普通車EVが一律15万円程度に減額されたと報じられている。従来の35万〜45万円から大きく目減りした形だ。
2026年度からはCEV補助金が銘柄別評価方式に刷新され、普通車EVの上限は130万円、軽EVの上限は58万円となる。
RACCOは軽EV枠での58万円据え置きが見込まれるが、これはあくまで現行の5人乗り以下の車種に対する話である。仮に将来BYDが3列シート車を日本投入した場合、車両価格が高くなるほど銘柄別評価方式の上限に近づきやすい面はあるものの、実際の補助額を保証するものではない点は留意しておきたい。
補助金以上に壁になりやすいのが「入手性」そのものだ。TangやDenza D9を今すぐ日本で手に入れたいと考えた場合、正規の選択肢はBYD Auto Japanが公式に取り扱いを始めるのを待つことに限られる。並行輸入を扱う業者を通じて個人輸入する道も理論上は存在するが、車両価格に加えて海上輸送費、輸入関税、そして日本の保安基準に適合させるための型式認証・改造費用が上乗せされるため、総額はアルファードのような国産大型ミニバンの上位グレードを大きく上回る可能性が高い。加えて右ハンドル仕様が存在しない車種を輸入した場合、左ハンドルのまま乗るか、高額な改造を施すかという追加の判断も必要になる。
部品供給や整備体制の面でも、正規ディーラー網を持たない並行輸入車は修理・車検のたびに対応可能な工場を探す手間がかかりやすい。BYD Japanの正規販売網が今後どこまで大型車のアフターサービスに対応できるかは、3列シート車投入の可否を左右するもうひとつの条件になるだろう。
BYDカテゴリーの他記事でも触れているとおり、補助金制度自体が年度ごとに大きく変わる点は留意しておきたい。
BLADE NOTEの見立て
BYDが日本で3列シート車を後回しにしているのは、技術的な制約ではなく優先順位の問題だと見ている。TangもDenza D9も中国・欧州ではすでに量産・実売されている車であり、右ハンドル化そのものはSEALION 6やSEAL6の投入実績を見る限り不可能ではない。問題は、5人乗りクラスでの価格訴求がまだ道半ばの段階で、認証コストの高い大型車に資源を割く合理性が薄いことだ。
NIOのES8やXpengのX9、Zeekrの009が軒並み日本を素通りしている状況を踏まえると、これはBYD一社の判断というより、中国EV勢全体が「日本の大型ミニバン市場は投資対効果が読みにくい」と見ている表れとも言える。
一方でKia PV5 Passengerが679万円という価格で可変7人乗りを提示したことは、BYDにとって無視できない先例になるはずだ。ID.Buzzのような1,000万円級ではなく、700万円前後の3列EVという価格帯が日本で成立することが示された以上、BYDが本気でこの枠を狙うなら、Denza D9のような高級MPVよりも、SEALION 6・7の延長線上にある廉価な3列SUVを別途企画する方が現実的だろう。現状のロードマップにその気配はまだ見えない。
出典
- 車種一覧(BYD Auto Japan公式)
- DOLPHIN価格発表(BYD Auto Japan)
- SEALION 6発売情報(BYD Auto Japan)
- RACCO発表情報(BYD Auto Japan)
- Denza D9日本展開計画を否定(response.jp)
- 東京オートサロン2026 BYDブース(Car Watch)
- 2026年BYD投入計画(motor-fan.jp)
- BYD Tang(7-seater SUV)(BYD Europe公式)
- Denza D9製品情報(Denza公式)
- 第2世代Denza D9発売(CarNewsChina)
- VW ID.Buzz日本発売情報(ベストカーWeb)
- Kia PV5 Passenger製品情報(Kia公式)
- 2026年度CEV補助金解説(補助金ポータル)
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