EV研究解説

WLTC900kmはCLTCで約1,100km 換算係数と実車比較

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WLTC900kmはCLTCで約1,100km 換算係数と実車比較

結論:WLTCモード900kmは中国のCLTCでおよそ1,100〜1,125km。係数0.80〜0.82で割り戻した値で、量産BEV最長クラスのDenza Z9 EV(CLTC 1,068km)をわずかに上回る。

適用係数 計算式 CLTC換算値
0.80(楽観) 900 ÷ 0.80 1,125km
0.81(中央値) 900 ÷ 0.81 1,111km
0.82(保守) 900 ÷ 0.82 1,098km

WLTCモード900kmを中国のCLTCに換算すると、おおよそ1,100〜1,125kmになる。係数0.80〜0.82で割り戻した結果で、現時点で量産BEVの最上位に位置するDenza Z9 EV(CLTC 1,068km)すらわずかに上回る、世界トップティアの航続性能に相当する。

この換算係数は法令で固定されていない。車種の空力性能、バッテリーの放電特性、想定速度域によって前後10%程度ぶれる「業界実務の目安」だ。WLTCとCLTCは試験条件そのものが違うため、単純な比例計算では片付かない。本稿では換算の根拠、規格の構造的差異、実車での到達点、そして日本のユーザーが知っておくべき落とし穴を、一次情報をもとに掘り下げる。

CLTC換算は約1,100〜1,125km

主要な換算式は「WLTC = CLTC × 0.80〜0.82」。これを逆算したのが下表だ。

適用係数 計算式 CLTC換算値 性質
0.80(楽観) 900 ÷ 0.80 1,125km 低速・市街地比率高めの車に該当
0.81(中央値) 900 ÷ 0.81 1,111km 業界で最もよく使われる実務目安
0.82(保守) 900 ÷ 0.82 1,098km 高速巡航中心の車に該当

係数0.80〜0.82はどこから来たのか

InsideEVsの規格比較記事では、WLTP ≒ NEDC × 0.85、NEDC ≒ CLTC × 0.95 と整理されており、両者を掛け合わせると WLTP ≒ CLTC × 0.80 となる。Autoevolutionも独立検証で「CLTCはWLTPより約20%甘い」と結論している。Tesla Model 3の中国仕様(CLTC 664km)でも係数0.85を使うとWLTP 564km相当で、実測寄りの楽観値として整合する。

つまり「WLTC 900km級」のEVは、中国カタログ上では CLTC 1,100km前後と表示されることになる。これは中国国内でもごく少数のフラッグシップしか到達していない数字だ。

CLTCは平均28.96km/hと低速

WLTCモード900kmは中国CLTCで何km - 換算根拠と実車比較
出典: EV Charging Stations

CLTCとWLTCは「車両を一定の速度プロファイルで走らせて電力消費を測る」という大枠は同じだが、肝心の速度プロファイルが大きく違う。中国市場の都市部交通を模擬したCLTC-P(GB/T 38146.1-2019)は、欧州郊外と高速走行を含むWLTCクラス3と比べて、構造的に電費が良く出る設計になっている。

速度・時間・距離の比較

項目 CLTC-P WLTC クラス3
平均速度 28.96 km/h 46.5 km/h
最高速度 114.0 km/h 131.3 km/h
試験時間 1,800秒 1,800秒
走行距離 14.48km 約23.27km
アイドル比率 22.1% 約13%
速度域構成 低速37.4 / 中速38.5 / 高速24.1% 低・中・高・超高速の4段階

甘く出る4つの構造的理由

第1に、最高速度がCLTCは114km/hにとどまる。空気抵抗は速度の二乗で効くため、131km/hまで踏み込むWLTCに比べて高速走行のペナルティが軽い。第2に、アイドル比率がCLTCは22.1%と倍近い。停車中はモーターが回らず電力消費もほぼゼロのため、平均電費が押し下げられる。

第3に、平均速度が29km/hと低く、回生ブレーキの効きやすい低速域が走行の大部分を占める。第4に、走行距離が14.48kmと短いため、走り出しの暖機ロスや空調起動電力の占有比率が相対的に小さくなる。中国汽車技術研究中心(CATARC)の研究者による論文(SPIE Proceedings、2023年、J-GLOBAL収録)は、同一車両でWLTCのエネルギー消費がCLTC-Pより25.9%高いと定量化している。

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最長はDenza Z9 EVの1,068km

2026年6月時点で、CLTC 1,000kmを超える量産BEVは中国でも数えるほどしかない。しかもほぼBYDグループが独占している状況だ。WLTC 900km級というのは、世界規模で見れば現在の量産技術が手の届く最上限に近い数字となる。

モデル CLTC航続 WLTC換算(×0.81) 電池容量
Denza Z9 EV 1,068km 約865km 122.5kWh
Denza Z9 GT EV 1,036km 約839km 122.5kWh
YangWang U7 EV 1,006km 約815km 150kWh
BYD Seal 08(2026年7月発売) 最大905km 約733km 非公表(Blade 2.0)
BYD Sealion 08 EV 最大900km 約729km 非公表
Xiaomi SU7 Max 800〜902km 約648〜731km 101kWh

BYDのトップ層を見ても、Denza Z9 EVのCLTC 1,068kmで「換算WLTC 865km」止まり。CLTC 1,100kmを明確に超えるモデルは2026年6月時点の市販車には存在しない。逆に言えば、もし日本のメディアが「WLTC換算900km」を謳う中国EVを紹介していた場合、それはまだ市販されていないコンセプト段階か、係数の取り方が極端に楽観的すぎる可能性が高い。CLTCで900kmをうたう新型セダンも、WLTCに直すと数字の見え方が変わる。→ 方程S 価格と900km航続

日本のBYD最長はSEALの640km

WLTCモード900kmは中国CLTCで何km - 換算根拠と実車比較
出典: 汽车之家

日本市場で正規販売されているBYD車のWLTC値は、現時点では以下のレンジに収まっている。

モデル WLTC航続 電池容量
BYD ATTO 3 EX(RWD) 620km 74.88kWh
BYD SEAL(RWD) 640km 82.56kWh
BYD SEAL AWD 575km 82.56kWh

WLTC 900km級の量産BEVは、日本市場には2026年6月時点で存在しない。世界の最高峰はテスラModel S Long Range(WLTC約700km)、メルセデスEQS(WLTC約780km)あたりで、Lucid Air Grand Touringがこれを上回る程度。Denzaは2026年4月にZ9 GTを欧州で発売したが、EV版の欧州WLTP値は最大599km(中国CLTCでは最大1,036km)と公表されており、日本導入の発表はない。BYD日本ラインアップの全車種比較を見ても、最長航続のSEAL RWDで640kmにとどまる。

実走行ギャップも知っておきたい。EVsmartブログのSEAL RWD実走テストでは、100km/h巡航時に約570km走破。これはWLTC 640kmに対して約89%の到達率だ。Autoevolutionによる規格別の実走ギャップ整理では、WLTPは実走行より15〜25%甘く、CLTCは30〜45%甘いとされる。つまりCLTC 1,100kmの車を冬季・高速主体で走らせると、実用航続は600〜770km程度まで落ち込む計算になる。気温や速度の条件を変えたときの航続距離は、シミュレーターで車種ごとに試算できる。→ EV航続距離シミュレーター

規格にまつわる実用上の落とし穴

中国スペック車を個人輸入する動きは、富裕層を中心に少しずつ広がっている。ここで注意すべきは、日本の制度がCLTCを認めていない点だ。

道路運送車両法に基づく燃費表示はWLTC(または社内測定値)が法定であり、CLTC値はカタログ補足情報以上の役割を持たない。そもそも2026年度のCEV補助金は200点満点の総合評価で、車両性能の配点は20点にとどまり、充電インフラ整備や供給の安定性などメーカー全体の取り組みが大半を占める。「CLTC 1,000kmだから補助金が多い」という見込みは成立しない。

もう一つの注意点は寒冷地での実走行だ。一般に、冬季の暖房使用とスタッドレスタイヤ装着が重なると航続が2〜3割短くなるケースがあるとされる。CLTC 1,100kmを北海道の真冬に走らせると、実用航続は600km台前半まで落ちる可能性がある。日本の充電インフラ事情と合わせて、長距離移動の計画には十分な余裕が必要だ。

BLADE NOTEの見立て

「WLTC 900km=CLTC 1,100km」という換算式は便利だが、これを鵜呑みにするのは危険だ。係数0.81は2024年までのデータに基づく経験則であり、Blade Battery 2.0や980V高電圧プラットフォームを搭載した最新車では、CLTCとWLTCの乖離率が変動する可能性がある。その試金石となるDenza Z9 GT EVの欧州WLTP値は最大599kmと公表された。中国CLTCの最大1,036kmに対して約0.58倍で、欧州仕様は3モーターという仕様差を考慮しても係数0.81を大きく下回る。換算係数は車種・仕様ごとに大きくぶれると考えるべきだ。

もう一つの論点は、CLTCを「甘い規格」と批判する欧米メディアの論調に対する反論だ。中国の都市部、特に北京・上海・深圳の通勤平均速度は20〜25km/h台で、欧州郊外を模擬したWLTCより、低速・停車多めのCLTCの方が現地ユーザーの実走行に近いという見方もある。Autoevolutionは「規格と実走行の比率で見ればCLTCもWLTPも似たような甘さ」と指摘しており、これは無視できない反論だ。問題は規格自体の甘さではなく、輸出時に係数を伏せたまま「CLTC 1,000km」を強調する販売手法の方にある。

輸出時の混乱はメーカー側にも実害をもたらしている。CLTCで申請した型式を欧州市場ではWLTPで、日本市場では国交省方式(実質WLTC)で再申請する二重三重コストは、輸出本数が少ない初期段階では無視できない負担だ。中国EV勢が世界市場で本格化するに従い、「グローバル統一規格」を求める声が強まる可能性は高い。UN GTRとCN GTRの調和プロセスが2026年後半から2027年にかけてどう進むかは注目点になる。

結論として、WLTC 900km級の航続性能は、現時点では「CLTC 1,100km」を中国カタログで見たときの目安として持っておけば実用に耐える。ただし数字の独り歩きには警戒したい。実走行を語るなら、係数を二度かけて「CLTC × 0.81 × 0.80 = 約65%」が冬季高速走行での目安になる。CLTC 1,100kmなら実走行710km前後、これが冷静な見方になる。航続距離は測定モードをWLTCにそろえないと、車種間の差を見誤りやすい。→ EV航続距離ランキング2026(WLTC基準)

出典

BLADE NOTE編集部

BYD・中国EVの価格・補助金・販売店の情報を、メーカー発表や官公庁資料などの一次情報をもとに日本語で整理しています。記事作成には AI を活用し、数値と事実関係は編集部が一次資料で確認しています(編集方針)。