BYD DM-i プラグインハイブリッドの仕組み – 高効率の正体
BYD DM-iは、通常はエンジンを発電専用に使うシリーズ方式で走り、高速巡航時だけクラッチでエンジンを車輪に直結するパラレル方式に切り替える。
「シリーズ・パラレル切替式」と言われてもピンとこない人は多いはずだ。この記事では、BYDのプラグインハイブリッド技術「DM-i」がどんな理屈で高い燃費性能を叩き出しているのか、駆動方式の切り替えロジックからエンジン単体の熱効率、そしてトヨタや日産、ホンダの方式との構造的な違いまで、原理から順に噛み砕いていく。
DM-iとは何か – BYDが2021年に投入した第4世代PHEV技術
BYDは2008年からプラグインハイブリッド技術「DM(Dual Mode)」を開発してきた。現在主流の「DM-i」はその第4世代にあたり、初採用は2021年3月8日発売の「秦PLUS DM-i」だ。最廉価グレードは9万9800元(当時レートで約194万円)で、10万元を切るPHEVとして中国国内で大きな話題になった。
「DM-i」の「i」はintelligent、そしてEV走行を主体とする「Electric-First」戦略を意味する。エンジンはあくまで発電・補助の役回りで、駆動の主役はモーターという設計思想がベースにある。ここが、エンジンとモーターを常時協調させて走るタイプのハイブリッドとは根本的に発想が異なる点だ。
2024年5月28日には第5世代「DM5.0(DM-i 5.0)」を発表。エンジン熱効率46.06%、バッテリー切れ後の燃費2.9L/100km、満充電満タンでの航続2,100kmを公表している。搭載車は秦L DM-iや海豹06 DM-iだ。ただし、日本で2025年12月1日に発売されたBYD SEALION 6が積むのはこの第5世代ではなく、ひとつ前の第4世代DM-iである。世代を混同した比較記事も見かけるが、日本仕様と中国最新仕様は別物だと理解しておきたい。
仕組みを分解する – 3つの走行モードとクラッチの役割

DM-iの駆動系は、1.5Lエンジン、発電用モーター、駆動用モーター、単段のトランスアクスル「EHS」、そしてクラッチ1基というシンプルな構成だ。変速機を持たず、モードの切り替えは基本的にクラッチの断続とモーター制御だけで行う。
EVモード – クラッチは開放、バッテリーのみで走る
クラッチを開放したまま、バッテリー電力だけで駆動用モーターが車輪を回す。エンジンは完全に停止しており、日常の市街地走行や発進加速の大半をこのモードが担う。
シリーズモード – エンジンは発電だけ、車輪とは切り離されたまま
クラッチは開放したまま、エンジンが発電機を回して電気を作り、その電気で駆動用モーターが車輪を駆動する。エンジンの回転数は車速と無関係に、もっとも効率の良い回転域に固定できるのが利点だ。バッテリー残量がおおむね25%を下回った場合や、低〜中速域で選ばれやすい(モノイスト誌の解説による目安)。
パラレルモード – クラッチ締結でエンジンが車輪を直接回す
加速時や中高速巡航では、クラッチを締結してエンジンのトルクを機械的に車輪へ直接伝える。このときモーターは出力をアシストする側に回る。さらに高速巡航かつ低SOC時には、発電やアシストを最小限にしてエンジンだけで走る「直結クルーズ」に近い状態も用意されている。
どのモードを選ぶかはドライバーが操作するのではなく、電子制御ユニットがアクセル開度・車速・バッテリー残量・エンジンの効率マップをリアルタイムで監視し自動選択する。中国語圏の技術解説では、高速道路走行時にシリーズモードが29%、エンジン直結のパラレルモードが67%程度という使用比率が紹介されているが、この数値の一次データ源は確認できておらず、参考値として扱いたい。
なぜ熱効率43%なのか – 「騏雲」エンジンの中身
DM-i専用に開発された1.5L自然吸気直列4気筒エンジン「騏雲(Xiaoyun)」は、ブレーキ熱効率43%(一部資料では43.04%)を達成している。この数値はSAE(米国自動車技術会)の技術論文「Development of 43% Brake Thermal Efficiency Gasoline Engine for BYD DM-i Plug-in Hybrid」で報告されたもので、メーカー発表値の中では最も裏付けの厚い一次資料だ。
熱効率とは、燃料が持つエネルギーのうちどれだけを実際の仕事(この場合は発電・駆動)に変換できたかを示す割合だ。一般的なガソリンエンジンは30%台半ばが目安とされるなかで、43%は量産エンジンとしては極めて高い部類に入る。BYDはこれを次の技術要素の積み上げで実現したとしている。
- 圧縮比15.5という高圧縮比
- ロングストローク設計とアトキンソンサイクルの採用
- 燃焼効率を高める高タンブルポート
- ノッキングを抑える冷却EGR、高エネルギー点火、ピストン冷却ジェット
- 0W-20オイル、低フリクションピストンリング、ピストンのDLCコーティングなどの摩擦低減策
- 2段可変容量オイルポンプや補機類の電動化によるポンプロス低減
第5世代DM5.0ではこの熱効率がさらに46.06%まで引き上げられ、中国汽車技術研究中心の認証を得たとされる。ただしこれは中国の業界団体による認証であり、日欧米の独立試験機関が再現した第三者検証値ではない点は区別して理解しておく必要がある。
数字で見る競合方式との違い

「シリーズ・パラレル切替式」というだけでは、トヨタや日産の仕組みとどう違うのか分かりにくい。動力の伝え方という観点で整理すると、方式の違いがはっきり見えてくる。
| 方式 | エンジン直結機構 | 変速段 | 代表的な熱効率 | 代表車種 |
|---|---|---|---|---|
| BYD DM-i(第4世代) | クラッチ1基あり | 単段(EHS) | 43%(SAE論文) | 秦PLUS DM-i、SEALION 6 |
| トヨタ THS-II(最新) | なし(遊星歯車で常時連続配分) | 電気式CVT相当 | 41%(M20A-FXS) | プリウス系 |
| ホンダ e:HEV | クラッチあり(高速巡航でエンジン直結) | 単段 | 非公表 | フィット、ヴェゼル |
| 日産 e-POWER | なし(純粋シリーズ、車輪を直接駆動しない) | — | 非公表 | ノート、X-TRAIL |
表からも分かるとおり、DM-iと構造的に近いのはホンダe:HEVだ。どちらもクラッチで機械的にエンジンと車輪をつなぐ場面を持つ。一方、日産e-POWERはエンジンが車輪を直接回すことは一度もない純粋シリーズ方式で、トヨタTHS-IIはクラッチという断続機構自体を持たず、遊星歯車だけで発電と駆動の配分を連続的に行う。「日本のシリーズHV」とひとくくりにDM-iと比べる論調を見かけるが、e-POWERとe:HEVは構造がまったく異なるため、この区別なしに語るのは不正確だ。
トヨタTHS-IIはクラッチによる断続がない分、変速ショックが原理的に発生しない滑らかさが持ち味とされる。対してDM-iやe:HEVはクラッチ締結・開放時の協調制御が設計上の腕の見せどころになる。ただし、DM-i固有のNVH(振動・騒音)特性について実測データに基づく比較は今回確認できておらず、この点は一般論にとどめておきたい。
日本市場での位置づけ – SEALION 6と価格
BYD Auto Japanは2025年12月1日、国内初のPHEVとなる「SEALION 6」を発売した。価格はFWDが398万2000円、AWDが448万8000円(税込)、EV専用走行距離は100kmを超える。BYD全車種の価格・スペック比較で見ても、SEALION 6はEV専用航続の長さが際立つグレード構成になっている。
繰り返しになるが、日本仕様が積むのは前述の第4世代DM-iであり、中国本国で最新の第5世代DM5.0(熱効率46.06%、航続2,100km)ではない。海外メディアの記事を読む際、この世代差を踏まえずに数値だけ引用すると誤解を招くので注意したい。
補助金については情報が流動的だ。SEALION 6の納車時期(FWDは2026年1月末、AWDは2026年3月)は、CEV補助金の受付終了見込み(2026年2月13日)と近接しており、AWDグレードは今年度の補助金申請に間に合わない可能性が指摘されている。一方で2026年からのCEV補助金制度見直しでは、PHEVの上限額が現行60万円から85万円に引き上げられるとの報道もある。SEALION 6個別の確定給付額を断定できる一次情報は現時点で確認できておらず、購入を検討する場合は最新の公式発表を確認してほしい。
BLADE NOTEの見立て
DM-iの設計は「クラッチで割り切る」という点に本質がある。トヨタTHS-IIのようにクラッチレスで滑らかさを追求する方向ではなく、必要な場面だけ機械的に直結してロスを削る、実利優先の設計だ。この割り切りが、10万元を切る廉価グレードから成立するコスト構造を可能にしたと見ている。単段のEHSとクラッチ1基という部品点数の少なさは、遊星歯車と複雑な電子制御を組み合わせるTHS-IIより製造コストを抑えやすい。
一方で懸念は協調制御の作り込みだ。クラッチ締結・開放のタイミングをどれだけ滑らかに処理できるかは、ソフトウェアと制御適合の完成度に依存する。ホンダe:HEVも同じ課題を抱えながら熟成を重ねてきた経緯があり、DM-iが第4世代から第5世代にかけて熱効率を43%から46.06%へ伸ばしてきたペースを見る限り、BYDの開発リソースの投下量は侮れない。日本仕様が最新の第5世代ではなく一世代前のDM-iにとどまっている点は、認証や部品調達の都合もあるだろうが、次期モデルでの世代アップグレードは早晩あり得るシナリオだと考える。
もうひとつ指摘しておきたいのは、熱効率46.06%という数値の性質だ。中国汽車技術研究中心の認証は業界団体によるものであり、SAE論文のような独立した査読済み技術文献とは重みが異なる。バッテリー技術や熱効率の数値を扱う記事全般に言えることだが、メーカー発表値と第三者検証値を区別せずに並べる報道は少なくない。数字の出どころを追う姿勢は、PHEV・EVの技術記事を読むうえで今後も欠かせない。
出典
- DM-iハイブリッド技術を初採用した新型セダン「秦Plus」発売(marklines.com)
- BYD launches 5th-gen DM tech with lower fuel consumption(CnEVPost)
- Development of 43% Brake Thermal Efficiency Gasoline Engine for BYD DM-i Plug-in Hybrid(SAE International)
- BYDのプラグインハイブリッドシステムの全貌、日本市場は第4世代「DM-i」を投入(MONOist)
- BYD SEALION 6 発売のお知らせ(BYD Auto Japan)
- Super DM Plug-in Hybrid Technology(BYD公式)
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