EVメガワット超急速充電の仕組み – BYD・Huawei 1000V技術の壁
BYDは電圧1000V・電流1000Aで最大1MW、華為は1.5MWの急速充電器を2026年に発表した。
充電の速さは電圧と電流の掛け算、つまりP=V×Iという単純な式で決まる。同じ出力を得るなら、電圧を上げれば電流は少なくて済む。たとえば400kWを出そうとすると、400V系なら電流は1000A必要だが、1000V系なら400Aで済む計算になる。ケーブルや電池内部で生じる熱損失は電流の2乗に比例する(発熱P=I²R)ため、電流が0.4倍になれば発熱は0.4の2乗、つまり0.16倍、およそ6分の1にまで下がる。BYDと華為が競うように電圧を引き上げているのは、この単純な物理法則を突き詰めた結果だ。
1000Vで何が変わったのか
BYDは2026年3月17日、乗用車として「全ドメイン1000V」を採用した新プラットフォーム「Super e-Platform」を発表した。車載のSiC(炭化ケイ素)パワーチップは耐圧1500V・1200A対応で、量産乗用車向けとしては業界最高クラスの電圧を自称する。充電電流は1000A、充電レートは10C(電池容量の10倍の電流で充電するという意味の単位、Tang Lは8.4C)、ピーク出力は1MW(1000kW)に達する。充電端末側の最大出力は1360kWで、2つのDC充電口を同時に使って受電する構成だ。
BYDが謳う「1秒で2km分」「5分で400km分(CLTC基準、Han L)」という数字は自社発表値であり、恒常的に繰り返される第三者検証ではない点は押さえておきたい。CLTCは中国の電費測定基準で、日本のWLTCより数値が緩めに出やすいとされ、割り引いて読む必要がある。実際にYouTuberのKyle氏(Out of Spec Reviews)が中国でDenza Z9 GTを使って計測したところ、30%から80%まで約5分、97%まで9分弱という結果が出ており、公表値に近い数字が確認されている。ただしこれは単発のデモ的な検証で、大規模かつ継続的な独立試験ではない。
華為は商用車が主戦場
華為は2026年4月23日、ピーク出力1.5MWの液冷式充電器「FusionCharge」を発表した。BYDが乗用車を主戦場とするのに対し、華為が主に狙うのは大型商用車(EVトラック)市場で、乗用車対応は副次的な機能という位置づけになる。同じメガワット級でも、両社が見ている市場はかなり違う。
なぜ電圧を上げると充電が速くなるのか

量産EVはもともと400V系が主流だった。この構図を変えたのがPorsche Taycanで、2019年9月にドイツ・ツッフェンハウゼン工場で生産を開始し、世界初の800V量産EVとしてデビューした。以降、Hyundai・KiaのE-GMPプラットフォーム(800V、10〜80%充電を約18分)などが追随し、800Vは高級EVのスタンダードになっていった。IEAの整理によれば、1000V級モデルが登場したのは2025年とされる。
電圧だけでは速くならない
ただし電圧を上げるだけでメガワット充電が実現するわけではない。電池セル、電池パック、充電器、コネクタ、冷却系、充電カーブのすべてが同時に対応して初めて数字通りの性能が出る。BYDが電池の内部構造まで作り直したのは、この全体最適が必須だったからだ。
数字で見る充電性能の世代差
電圧世代ごとの違いを整理すると、電流と発熱の関係がはっきり見えてくる。表の10-80%充電時間はあくまで目安で、実際は気温や電池残量によって変動する。
| 世代 | 代表例 | 電圧 | 10-80%充電時間の目安 |
|---|---|---|---|
| 400V系 | 従来の主流EV | 約400V | 30分超 |
| 800V系 | Porsche Taycan、Hyundai E-GMP | 約800V | 約18分 |
| 1000V系 | BYD Super e-Platform | 1000V(車載チップは1500V耐圧) | 非公表(独立検証で30→80%を約5分) |
BYDと華為を単純比較すると、狙う車格の違いがそのままピーク出力の違いに表れている。
| 項目 | BYD Super e-Platform | 華為 FusionCharge |
|---|---|---|
| 発表日 | 2026年3月17日 | 2026年4月23日 |
| ピーク出力 | 1MW(端末最大1360kW) | 1.5MW |
| 電流 | 1000A | 非公表 |
| 主な対象 | 乗用車 | 大型商用車(乗用車は副次対応) |
電流1000Aを支える冷却ケーブルとSiC半導体
1000A級の大電流を人が持てる太さのケーブルで扱うには、液冷ケーブルがほぼ必須になる。銅線を太くして抵抗を下げる方法には限界があり、代わりにケーブルの被膜内部に冷却液を循環させ、導体で生じた熱をその場で奪う構造が採用されている。日本の充電インフラの現状を見ても、液冷ケーブル対応の急速充電器はまだ限られており、メガワット級の導入にはインフラ側の更新が前提になる。
BYDのSuper e-PlatformはSiC(炭化ケイ素)パワー半導体を採用し、耐圧1500V・1200A対応のチップで高効率な電力変換を実現している。SiCはシリコン系の半導体に比べてスイッチング損失が小さく、高温下でも動作が安定するため、高電圧・大電流を扱う充電回路との相性がよい。800V以上のEVアーキテクチャでは、すでに事実上の標準部材になりつつある。

電池側の壁 — LFPのまま10Cを狙う

BYDが電池の化学系にLFP(リン酸鉄リチウム)を選び続けているのには経緯がある。2020年に投入された「ブレードバッテリー」は、釘刺し試験に耐える安全性を売りにした薄型・長尺のLFPセルで、エネルギー密度の低さを形状の工夫で補ってきた。Super e-Platformの電池もこの路線の延長にあり、化学系そのものを刷新するのではなく、構造と冷却の作り込みで性能を引き上げるアプローチを一貫させている。
10C級の超急速充電(満充電の10倍の電流で充電すること)を電池側で受け止めるには、イオンの通り道を最適化して内部抵抗を下げる、冷却を強化する、電極の劣化を抑えるという3点セットが要る。BYDはイオン伝導経路の最適化で内部抵抗を50%低減し、冷却方式を片面から上下両面に変えて放熱性能を5倍に高めたとしている。加えて「自己修復SEI膜」により、高温下での電池寿命を35%改善したという。SEI膜とは電極表面にできる薄い保護層のことで、これが安定しないと電池の劣化が早まる。

この設計思想はEVバッテリー技術の基礎とも重なる部分が多く、化学系そのものを変えずに周辺構造で性能を引き上げるアプローチは、コストを抑えたいBYDらしい判断とも言える。
76.42℃発熱論争
2026年5月、あるブロガーがFang Cheng Bao Tai 3のメガワットフラッシュ充電をライブ配信で検証したところ、電池表面温度が最大76.42℃まで上昇し、中国のSNSで安全性論争が起きた。電池のSEI分解は一般に80〜120℃程度から生じるとされ、76℃が「まだ余裕がある温度」なのか「かなり危ない温度」なのかは専門家の間でも見解が割れている。BYDの電池事業CTOはこれに対し、1000回の完全フラッシュ充電サイクル試験を実施済みだと反論したが、独立機関による長期劣化検証は今のところ存在しない。
系統容量というボトルネック
メガワット級の充電ハブは、車両側だけでなく電力系統側にも重い宿題を残す。1MW超の出力を安定供給するには周辺の変電設備そのものを増強する必要があり、これには数百万ドル規模の投資と数年単位の工事期間がかかるとされる。充電ステーションを増やす計画は発表しやすいが、それを支える配電網の更新は自治体や電力会社との調整が絡む分、進みが遅くなりやすい。BYDが「全国4000カ所超」を掲げても、実際の展開ペースは系統側の制約に左右されるはずだ。
規格の行方 — ChaoJiと日本のロードマップ
充電規格の足並みをそろえる動きもある。2018年8月28日、CHAdeMO協議会と中国電力企業連合会は次世代規格「ChaoJi」の共同開発に合意した。最大電圧1000〜1500V、最大電流600A、最大出力500〜900kWを想定する規格で、日本では2023年から実証試験が始まっている。CHAdeMO協議会のロードマップでは2032〜2035年頃に旧規格からの移行完了を目指すとされるが、これは目標であって確定した法的期限ではない。
経済産業省は高速道路のSA・PAで1口90kW以上を目安とし、2030年までに充電インフラの総出力を現行比10倍の約400万kWへ引き上げる方針を掲げている。2026年度からは150kW以上の充電器区分も新設される予定だ。ただしBYDや華為のメガワット技術そのものを日本に導入するという公式な計画は、現時点では確認できていない。中国での先行導入と、日本のインフラ高度化ロードマップは、いまのところ別の時間軸で動いていると見るのが実態に近い。
BLADE NOTEの見立て
BYDのメガワット充電は「電池化学を変えずに周辺構造で殴る」戦略の到達点だと見ている。LFPという枯れた安全な化学系を維持したまま、冷却構造とイオン伝導経路の最適化だけで10Cを実現したのは、コストと安全性のバランスを重視するBYDらしい選択だ。全固体電池のような化学系の刷新を待たず、既存技術の延長線上でここまで到達できることを示した意味は大きい。
一方で76.42℃発熱論争が示すのは、公表スペックと実運用の間にまだ埋まっていない溝があるということだ。BYD自身が1000回サイクル試験を持ち出して反論した事実そのものが、外部の懸念が的外れではなかったことの裏返しでもある。独立機関による長期劣化データが出そろうまでは、メガワット充電を「毎回使っても電池が傷まない充電方法」と断定するのは早計だろう。
系統容量の制約を踏まえると、BYDが掲げる4000カ所超という数字も、実現までには相応の年月がかかると見ておくべきだ。充電器そのものの技術は完成に近づいていても、それを支える送電網の更新は別の時間軸で進む。
日本市場については、当面はBYD・華為のメガワット技術より、ChaoJi移行と経産省の150kW区分新設のほうが現実的な論点になる。BYDの日本向けラインナップを見ても、メガワット級の充電に対応した車種はまだ投入されていない。中国国内で1000回サイクル試験のデータが積み上がり、系統側の投資判断が固まる2030年前後が、日本でこの技術の是非を語る最初のタイミングになるはずだ。
出典
- BYD Unveils Super e-Platform With Megawatt Flash Charging(BYD公式)
- BYDのSuper e-Platform技術解説(日経クロステック)
- BYD Super e-Platform発表に関する解説(EVsmartブログ)
- BYD 1500kW Flash Charging Network(XenoSpectrum)
- Denza Z9 GTの実測レビュー(The Cool Down)
- BYD Flash Charging Livestream Hits 76°C(CarNewsChina)
- BYD Scientist: Flash Charging Won’t Damage Battery Life(CnEVPost)
- Huawei Launches Megawatt Charger(S&P Global Mobility)
- Huawei MW Liquid-Cooled Fast Charger(Huawei公式)
- 400V vs 800V EV Charging(Power-Sonic)
- Porsche Taycan Production Start(Green Car Congress)
- ChaoJi charging standard(Wikipedia)
- ChaoJi High Power Charging(CHAdeMO協議会)
- 充電インフラ整備の方針(経済産業省)
- 液冷充電ケーブルに関する研究(ScienceDirect)
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