中国EV衝突安全性評価 – Euro NCAPで見るBYDと明暗の差NEW
BYD ATTO3・SEAL・DOLPHINはEuro NCAPで軒並み5つ星、Adult Occupant保護は89〜91%とテスラ・モデルYに匹敵する水準にある。
ただし同じ中国メーカーのDongfeng BOXは2025年のEuro NCAP試験で3つ星に沈み、前面衝突でスポット溶接が破断する不具合まで指摘された。「中国EVは安全」でも「中国EVは危険」でもなく、ブランドと車種によって結果は大きく割れている。これがEuro NCAPの公開データが示す実像だ。
何が起きたのか — 5つ星が並ぶ一方で3つ星も出ている
2026年に入り、Euro NCAPは予防安全・衝突後安全・シミュレーション評価まで組み込んだ新プロトコルの運用を始めた。7月にはZeekr 7 GTがこの新基準のもとで5つ星を獲得したとCarNewsChinaが報じている。新基準は旧基準より厳しく設計されているため、2026年以降の5つ星と2022〜2023年の5つ星は同列に比較できない点に注意が要る。
一方で、旧基準下の2025年にEuro NCAPでテストされたDongfeng BOXは3つ星にとどまった。前面オフセット衝突試験で車体骨格のスポット溶接が複数箇所破断し、キャビン周辺の変形リスクが高まったことが主因だ。エアバッグの内圧不足や、衝突後にドアが挟まって開かなくなる脱出性の問題もEuro NCAPの公式発表で名指しされている。同じ中国メーカーの車でも、これだけ結果は違う。
Euro NCAPとC-NCAPは別の物差し
ここで前提を整理しておきたい。Euro NCAPは自動車業界から独立した非営利の第三者機関で、世界で最も厳格な評価基準の一つとされる。対するC-NCAPは中国汽車技術研究中心(CATARC)傘下の中国国内プログラムで、過去には「5つ星を出しすぎる」と指摘されてきた経緯がある。近年は基準を段階的に厳格化しているものの、専門家の間では引き続きEuro NCAPを主要な参照軸とする傾向が強い。「C-NCAPで5つ星=世界最高水準の安全性」という短絡は避けるべきで、本稿でもどちらの基準での評価かを都度明記する。
車体はどう守っているのか — CTBとブレードバッテリーの仕組み

BYD SEALなどに採用される「CTB(Cell to Body)」構造は、バッテリーパック自体を車体構造の一部として組み込む設計だ。従来はバッテリーを車体の下に「載せる」だけだったが、CTBではバッテリーの上蓋を車室の床として使い、パック自体に荷重を負担させる。BYD Japanの公式発表によれば、CTB非搭載車に比べて正面衝突時の車体変形量を50%、側面衝突時を45%低減し、ボディのねじり剛性は40,000N・m/degと欧州プレミアム車と同水準になるという。ただしこれはメーカー自己申告値であり、Euro NCAPなど第三者機関が独立に再現・検証したデータではない。この違いは記事を読むうえで重要なので繰り返しておく。

もう一つの柱が「ブレードバッテリー」だ。セルを薄い刃(ブレード)状に並べて構造ビームのように機能させる「Cell to Pack」設計で、モジュールを介さずセルを直接パックに収める分、同じ体積でも収容効率が上がる。BYDの発表では、ブレードバッテリー2.0は400kNの圧壊試験や時速70kmでの車体下面すり抜け試験を無発火・無爆発でクリアしたとされる。ただしこの数値についても独立試験機関による再現データは今回の調査では確認できなかった。セルを構造材として使うという発想自体の広がりはバッテリー技術ガイドで詳しく整理している。
車体側の素材でいえば、BYD SEALはAピラーなど最も強度が必要な部位にプレス硬化鋼(ホットスタンプ材)、キャビンやバッテリー周辺には高張力鋼板を配置している。同様の設計思想は他の中国メーカーにも広がっており、Chery Omoda 5は車体の78%が高張力鋼、A・Bピラーなど重要部位には最大1800MPa級のホットスタンプ材を使う。Li Auto L8もA・B・Cピラーや敷居、ドアの侵入防止バーの28.9%にホットスタンプ材を採用している。こうした「硬い骨格で客室を守り、衝撃はそれ以外の部位で吸収する」という発想自体は、日欧の高級車が採ってきた手法と変わらない。
数字で見る — Euro NCAPスコア比較
実際のスコアを並べると、BYDの主力モデルがどの水準にいるかが見えてくる。
| モデル | 評価機関/年 | 星 | Adult Occupant | Child Occupant |
|---|---|---|---|---|
| BYD ATTO 3(2022年型) | Euro NCAP | 5★ | 91% | 89% |
| BYD SEAL / DOLPHIN(2023年) | Euro NCAP(BYD公式発表引用) | 5★ | 89% | 87% |
| NIO ET5(2023年) | Euro NCAP | 5★ | 非公表 | — |
| Xpeng G6(2024年) | Euro NCAP | 5★ | 非公表 | — |
| Dongfeng BOX(2025年) | Euro NCAP | 3★ | 非公表 | 非公表 |
| Tesla Model Y(改良後) | Euro NCAP | 5★ | 91% | 93% |
| Toyota bZ4X | Euro NCAP | 5★ | 非公表 | 非公表 |
BYD ATTO 3・SEAL・DOLPHINのAdult Occupant89〜91%という数字は、Tesla Model Yの91%とほぼ並ぶ。少なくとも構造安全性(衝突時の車体・乗員保護)に限れば、BYDの主力3モデルは欧州・米国の基準でも見劣りしない結果を出している。一方でToyota bZ4XやVW ID.3は星こそ5つだが、個別カテゴリーの%が公開情報として確認できず、横並び比較には限界がある。
中国国内のC-NCAPでは、BYD 海豹(SEAL)が総合得点率88.6%、BYD 漢(Han EV)のロングレンジ上位グレードが91.5%と、いずれも高水準の結果を残している。ただし前述の通りC-NCAPはEuro NCAPより採点が緩いとの指摘があるため、この数字を「世界最高水準」の根拠として単独で使うのは適切ではない。あくまで「中国国内基準でも高評価」という位置づけで読むべき数字だ。なお「海豹(アザラシ)」はBYD SEALを指し、同じBYDの小型車「海鴎(シーガル)」とは別モデルなので、英訳検索では混同しやすい。
ATTO 3が背負った「もう一つの評価」
ここで見落とせないのが、2024年にEuro NCAPが新設した「Assisted Driving(運転支援)」評価だ。これは衝突時の車体保護性能とはまったく別の軸で、追従走行や車線維持支援の実効性を測るもの。BYD ATTO 3(2022年型)はここでAssistance Competence55%、Safety Backup35%という低スコアを取り、史上初の「Not Recommended(非推奨)」評価を受けた。追従走行中に前走車や二輪車への反応が不適切だったほか、ドライバーが操作しなくなってもレーン中央維持機能だけが停止し、追従走行自体は継続してしまう欠陥があったという。
重要なのは、これが構造安全性の5つ星評価とは独立した結果だという点だ。「ATTO 3は危険な車」と一括りにするのは誤りで、正しくは「車体保護は優秀、運転支援ソフトウェアには欠陥があった」という話になる。BYDはその後OTAアップデートで2022年型を「Moderate」評価まで引き上げ、2025年型では新システムに刷新して「Good」評価を獲得した。第三者評価の指摘を受けて実際に改善した例として、素直に評価していい部分だろう。
中国EVは一律に安全でも危険でもない

Dongfeng BOXの3つ星に加え、MG 3(ハイブリッド)ではさらに深刻な事例がある。前面オフセット衝突試験で運転席シートのラッチ機構が破損し、シートが最大約11cm前方にずれるという、Euro NCAPが「28年の歴史で初」と表現した重大な部品破損が起きた。それでも総合評価は4つ星のままだったため、Euro NCAP自身が採点プロトコルの見直しを表明する事態になっている。個々のメーカーの実力差は中国EVメーカー一覧でも整理しているので合わせて参照してほしい。
2025年後半以降、BYD・Xiaomi・Li Autoなど主要ブランドで相次いだ事故・火災報道を受けて、「中国EVは価格の安さと引き換えに安全リスクを受け入れることになる」という懐疑的な見方が広がっているとの報道もある。ただしこの中で語られる火災件数の集計は算出方法や一次データが確認できておらず、数字自体を鵜呑みにするのは避けたい。加えて、この文脈でしばしば引き合いに出されるXiaomi SU7の事故はXiaomi車であり、BYD車ではない。2025年3月に安徽省で発生したSU7の炎上事故ではドアが開かず学生3人が死亡し、同年10月のSU7 Ultra炎上事故では電子式ドアリリースが低電圧系統の停止とともに機能しなくなったと報じられている。Xiaomi自身の予備調査では出火の起点はバッテリーの熱暴走ではなくキャビン内である可能性が高いとされ、成都の関連事案では低電圧システムの電源喪失によるドア開放不能が公式調査で確認されたという。これはNCAPのスコアには表れにくい「電子式ドアの設計思想」というリスクであり、BYDとは別のメーカー・別の論点として扱う必要がある。
日本市場での位置づけ
日本でBYD車を検討する際に混同しやすいのが、型式指定認証とNCAP評価の違いだ。BYD Auto Japanは2023年6月28日、ATTO 3で国土交通省の型式指定認証を取得した。中国自動車ブランドとして初の事例で、これによりそれまでの「年間5,000台上限・現車検査」という制約(PHP制度)が撤廃されている。ただしこれは日本の安全基準への適合を示す制度であり、JNCAP(国交省・NASVA運営の日本版アセスメント)がBYD車を対象に星評価を公表した事例は確認できていない。型式指定と星評価はまったく別の話だ。
価格面では、2025年4月改定後でDOLPHIN標準グレードが299万2000円から、ATTO 3が418万円から。各種補助金適用でDOLPHINは実質214万円程度になる地域例もある。2026年4月登録分からはCEV補助金の算定方式が刷新され、200点満点のうち100点が国産電池採用など経済安全保障関連の項目に配分された結果、BYD各車の補助額は横並びで15万円となり、トヨタなど国産メーカーの最大130万円・115万円との差が開いた。安全性能そのものとは別の話だが、価格差の一因が政策設計にもあることは押さえておきたい。BYDの車種構成やグレード差を横並びで確認したい場合はBYD全車種の価格・スペック比較が参考になる。
BLADE NOTEの見立て
Euro NCAPの公開データを素直に読む限り、BYDの主力3モデルの構造安全性は「中国製だから割り引いて見る」必要のない水準にある。Adult Occupant89〜91%はTesla Model Yと大差なく、CTBやブレードバッテリーといった構造の工夫も、少なくとも設計思想としては筋が通っている。ここを疑う理由は今のところ乏しい。
一方で、この記事で最も強調したいのはブランドごとの分散の大きさだ。同じ「中国EV」というくくりの中に、Euro NCAPで5つ星を取るBYD・NIO・Xpeng・Zeekrと、3つ星に沈むDongfeng、シートラッチが破損したMGが同居している。これは中国製造業の急成長ゆえの品質のばらつきが、そのまま試験結果に表れたものだと見ていい。市場が急拡大する局面では、上位ブランドの実力と急いで参入した後発ブランドの実力の差が開きやすい。日本の消費者が中国EVを検討する際に必要なのは「中国製だから」という括りではなく、車種単位でEuro NCAPのスコアシートを確認する作業だ。
もう一点、ATTO 3の運転支援評価とXiaomi SU7の事故は、どちらも「衝突時に車体がどれだけ潰れるか」という従来型の安全性能とは別の論点を突きつけている。ソフトウェアの実効性や、電子制御に依存したドア開放システムの設計は、Euro NCAPの星評価だけでは可視化されないリスクだ。今後の中国EV評価では、この「ソフトウェア・電子系の安全性」がハード面の構造安全性と同じ比重で問われるようになるはずで、そこにこそ次の差が生まれると見ている。
出典
- Chinese EV Safety Ratings Explained(DriveChina)
- Euro NCAP 2026: What’s Changing(AVL)
- BYD ATTO 3 Safety Rating(Euro NCAP)
- BYD SEAL and DOLPHIN awarded 5 stars(BYD公式)
- Zeekr 7 GT earns five stars(CarNewsChina)
- Dongfeng BOX Datasheet(Euro NCAP)
- Dongfeng BOX crumples in testing(Euro NCAP)
- BYD ATTO 3 Assisted Driving — Not Recommended(Euro NCAP)
- BYD improves assisted driving system(Euro NCAP)
- BYD海豹 C-NCAPスコア(Sohu)
- BYD漢 C-NCAPスコア(羊城晩報)
- BYD安全宣言(CTB構造)(BYD Japan)
- BYD SEALの車体構造解説(日経クロステック)
- BYD Tang motor detachment in Shenyang(CarNewsChina)
- 中国EVの安全性への懐疑論(The Economy)
- Xiaomi SU7 Ultra fire investigation(CarNewsChina)
- MG 3 seat failure in Euro NCAP test(Euro NCAP)
- Model Y earns 5-star safety rating(Tesla)
- BYD ATTO 3型式指定認証取得(PR TIMES)
- CEV補助金算定方式の刷新(日本経済新聞)
- BYD Japan価格改定(BYD Japan)
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