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ガソリンスタンド3万カ所がEV拠点に?イクヨとムラキの協業が示す充電インフラの現実解NEW

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ガソリンスタンド3万カ所がEV拠点に?イクヨとムラキの協業が示す充電インフラの現実解

全国に約3万カ所あるガソリンスタンド(GS)。この既存インフラをEV拠点に転換できれば、日本の充電インフラ不足は一気に解消する——。自動車部品メーカーのイクヨと、自動車アフターマーケット商社のムラキが、そんな構想につながる協業の検討を始めた

両社はEVを活用したレンタカー事業と、EV普及に向けた包括的な協業を模索している。ムラキが持つレンタカー拠点とGSネットワークの活用を視野に入れ、すでに現地視察と打ち合わせを実施済みだ。

GS網の転用がもたらすインパクト

日本の充電インフラは現在、急速充電器が約1万基、普通充電器が約3万基。数だけ見れば増えてはいるが、「行きたい場所に充電器がない」という偏在の問題は根深い。高速道路のSA・PAや都市部の商業施設に集中し、地方の幹線道路沿いや郊外では空白地帯が残る。

ここでGSネットワークの価値が浮かび上がる。全国約3万カ所のGSは、まさに「クルマが燃料を求めて立ち寄る場所」として最適化された立地だ。幹線道路沿い、住宅地の生活動線上、地方の集落——充電器設置の候補地としてこれ以上の既存ネットワークはない。仮にこの3万カ所の一部にでも急速充電器が併設されれば、現在の急速充電器数は数倍に跳ね上がる計算になる。新規に土地を取得する必要がなく、電力引き込みの基盤もある程度整っている。

GSは看板や照明で視認性が高く、ドライバーにとって馴染みのある場所でもある。充電アプリで空き状況を確認し、見知らぬ駐車場の片隅で充電器を探す——という現在のEV充電体験とは根本的に異なる。トイレや自販機、洗車場がそのまま使え、コンビニ併設型なら30分の充電時間も苦にならない。地方在住のEVオーナーにとっては、生活圏内のGSで日常的に充電できる環境が整うだけで、EVの実用性は大きく変わる。

レンタカー×EVという入口

両社はいきなり充電インフラの大規模展開を掲げたわけではない。まずはEVレンタカー事業から入る。

EVに興味はあるが購入には踏み切れない——そんな層は少なくない。航続距離への不安、充電の手間、車両価格。レンタカーなら初期投資なしでEVの実走行を体験でき、「思ったより使える」という実感を得る機会になる。ムラキのGS拠点でEVを借りて返す導線が整えば、返却時に充電するオペレーションも自然に成立する。

イクヨは自社の成長戦略で電動化を最重点領域に位置づけている。自動車部品メーカーとしてエンジン車依存からの転換を図る中、EVレンタカーは市場の反応を直接つかめる実験の場にもなる。

GS転用の壁とBYDユーザーへの影響

ただし、GS網のEV拠点化には現実的なハードルもある。

最大の課題は電力容量だ。急速充電器1基で50〜90kW、高出力タイプなら150kW超の電力を消費する。複数台を同時充電するには受電設備の大幅な増強が必要で、変圧器の交換や高圧受電契約への切り替えといった工事コストが発生する。小規模なGSほどこの負担は重い。

規格の問題もある。日本ではCHAdeMO規格が主流だが、世界的にはCCS2やNACS(テスラ規格)が勢力を拡大中だ。どの規格の充電器を設置するかは、数年先の互換性を左右する。BYDのATTO 3やDOLPHIN、SEALといった日本販売モデルはCHAdeMOに対応しているが、グローバルではCCS2仕様が標準であり、今後の規格統一の行方次第ではGS側の設備投資判断も変わってくる。

GS業界自体が構造的な縮小局面にあることも無視できない。ガソリン需要の減少で閉鎖が相次ぎ、ピーク時の約6万カ所から半減した。充電設備への投資余力がない事業者も多い。補助金制度は存在するが、申請手続きの煩雑さや採択の不確実性が中小事業者の参入障壁になっている。

一方、BYDユーザーにとってGS充電は具体的なメリットがある。たとえばATTO 3はCHAdeMO急速充電で最大約70kWの出力に対応しており、30分の充電で約150km分の電力を補充できる。GSに立ち寄って洗車や買い物をしている間に、日常の移動には十分な航続距離が回復する計算だ。BYDの正規ディーラーは全国100店舗超の展開を進めているが、地方部ではまだカバーしきれていない。ディーラー併設の充電器だけに頼らず、生活圏内のGSで気軽に充電できる環境が整えば、地方のBYDオーナーにとって日常使いのハードルは大きく下がる。

検討段階の今、注目すべきポイント

イクヨとムラキの協業はまだ検討段階であり、具体的なGSへの充電器設置計画が発表されたわけではない。しかし、自動車部品メーカーとアフターマーケット商社という組み合わせは、車両側とインフラ側の両面からEV普及に取り組める構成だ。レンタカー事業の対象地域や開始時期、そしてGS拠点への充電器設置に踏み込むかどうかが、今後の具体的な判断材料になる。民間企業が既存のGS網に着目し、充電インフラの空白を埋めようとする動きは、政府主導の補助金頼みとは異なるアプローチとして、その進展を追う価値がある。

出典

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BLADE NOTE編集部
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