バッテリー技術

全固体電池はいつ実用化?トヨタ・BYD・日産の開発時期とEV購入の結論

10分で読める
バッテリー技術: 全固体電池はいつ実用化?トヨタ・BYD・日産の開発時期とEV購入の結論
広告

全固体電池の実用化、結局いつなのか

先に結論を書く。全固体電池搭載EVが一般消費者の手に届く価格で買えるのは、早くて2030年、現実的には2031年以降。今EVを買うかどうかの判断材料にはならない。

「全固体電池が来たらEVを買う」。こう考えている人は少なくない。航続距離が倍、充電10分で終わる――夢の電池として語られることが多いが、各社の開発スケジュールを並べてみると、実用化までの温度差はかなり大きい。

トヨタ、BYD、日産、CATL。主要プレイヤーのタイムラインを整理する。

全固体電池とは――液体から固体で何が変わるのか

まず基本を押さえておく。現行のリチウムイオン電池(LIB)は、正極と負極の間を液体の電解質でイオンが移動する仕組みだ。全固体電池は、この液体電解質をすべて固体に置き換える。

液体がなくなることで3つの大きな変化が生まれる。

第一に、エネルギー密度の飛躍的な向上。現行LIBの250 Wh/kgに対し、全固体電池は450 Wh/kgが目標。約1.8倍だ。同じ重さの電池でEVの航続距離が大幅に伸びる。

第二に、充電速度の高速化。固体電解質はイオン伝導の安定性が高く、大電流での充電に耐えやすい。技術的には10分で80%充電が可能になるとされている。ガソリン給油に近い感覚だ。

第三に、安全性の向上。液体電解質は可燃性で、損傷時に液漏れや発火のリスクがある。固体にすればこのリスクが大幅に減る。電池パックの設計自由度も上がり、車両全体の軽量化にもつながる。事故時の熱暴走リスクが低いため、冷却システムの簡素化も期待される。

比較項目 現行LIB 全固体電池(目標値)
エネルギー密度 250 Wh/kg 400〜500 Wh/kg
充電速度(80%まで) 30〜60分 10〜15分
安全性(液漏れ・発火) リスクあり 大幅に低減
製造コスト 基準 現状4〜25倍
動作温度範囲 -20〜60℃ -30〜100℃(理論値)
実用化時期 量産中 2027〜2031年

数値だけ見れば全固体電池は圧倒的だが、「目標値」と「量産で安定して出せる値」は別物。研究室レベルのセルと、工場で毎日数千個作るセルでは品質のばらつきが段違いに大きくなる。ここが最大の論点になる。

3つの方式、主戦場は硫化物系

全固体電池には大きく3つの方式がある。各社の採用状況と特徴を整理する。

方式 主な採用 強み 弱み
硫化物系 トヨタ、BYD、日産 イオン伝導率が高い 水分に弱く製造管理が難しい
酸化物系 一部スタートアップ 化学的安定性・安全性が高い 高コスト、界面抵抗大
ポリマー系 一部商用化済 低コスト・製造が容易 低温での性能低下

主要自動車メーカーが揃って硫化物系を選んでいるのは、イオン伝導率の高さがEV用途に最も適しているため。ただし硫化物系は水分との反応で硫化水素を発生するリスクがあり、製造時のドライルーム環境整備にコストがかかる。

量産を阻む3つの技術的課題

全固体電池の原理実証はすでに各社が達成している。問題は量産だ。立ちはだかる壁は大きく3つある。

課題1:製造コスト

現状、全固体電池のセルコストは従来LIBの4〜25倍。硫化物系の固体電解質は水分を嫌うため、製造ライン全体をドライルーム化する必要がある。この設備投資だけで数百億円規模。量産スケールに乗せてコストを下げるまでには、最低でも数年の時間と数千億円の投資が要る。

課題2:サイクル寿命

充放電を繰り返すと、固体電解質と電極の界面が劣化する。特に硫化物系は充放電時の体積変化で界面にクラックが入りやすく、数百サイクルで容量が急落する事例が報告されている。EVに求められるのは最低1,000サイクル、理想は3,000サイクル以上。この溝はまだ埋まっていない。

課題3:量産プロセスの歩留まり

ラボでは作れても、量産ラインで安定して作れるかは別問題。固体電解質の均一塗布、電極との密着性確保、欠陥検査の自動化――いずれも従来のLIB製造とは異なるノウハウが必要になる。歩留まりが低ければコストは下がらず、コストが下がらなければ普及しない。

課題 現状 量産に必要な水準 達成見込み
製造コスト LIBの4〜25倍 LIBの1.5倍以下 2030年以降
サイクル寿命 数百サイクル 1,000〜3,000サイクル 2028〜2030年
量産歩留まり 非公開(低いとされる) 90%以上 2029年以降

トヨタ:2027〜2028年、最も積極的なタイムライン

トヨタは全固体電池の実用化で最も前のめりだ。2026年からパイロットラインでの試作を開始し、2027〜2028年にはEVへの搭載を目指す。パートナーには出光興産(固体電解質)と住友金属鉱山(正極材)を据え、サプライチェーンの内製化を着実に進めている。

方式は硫化物系。目標エネルギー密度は450〜500 Wh/kg(トヨタ公式目標値)で、現行のリチウムイオン電池(250〜350 Wh/kg)と比べると大幅な向上だ。ただし、量産段階でこの数値を安定的に出せるかは別問題。試作と量産の間には大きな壁がある。

トヨタがここまで全固体に注力する背景には、EV戦略の遅れを一気に取り戻したいという意図が透ける。既存のリチウムイオン電池ではBYDやテスラに対抗しにくい。全固体電池を「逆転の切り札」に位置づけている格好だ。研究開発費の公表額だけで約1兆円超を電池関連に投じており、本気度は間違いない。

BYD:2030年量産、全固体に依存しない現実路線

BYDのアプローチはトヨタとは対照的。全固体電池の研究は2013年に開始。2016年に小型試作での技術検証を経て、2023年に工業化プロセスを整備した。2024年には20Ahと60Ahのセル試作も済ませた。開発は進んでいるが、量産ターゲットは2030年以降。2027年にデモを予定するものの、急いでいない。

目標性能は400 Wh/kg(BYD公表目標値)、800 Wh/L(体積エネルギー密度)。方式は硫化物系で、複合ハロゲン化物を採用する。性能目標自体はトヨタに近いが、タイムラインに3年近い差がある。

BYDは全固体電池に社運を賭けていない。主力のLFP(リン酸鉄リチウム)電池の改良を続けながら、ナトリウムイオン電池の開発も並行して進めている。複数の技術を同時に走らせ、どれが転んでも対応できる体制だ。

BYDがこの余裕を持てる理由は単純で、現行のEVラインナップが十分に競争力を持っているからだ。全固体電池がなくても戦える。だから焦らない。

電池技術 用途 時期 位置づけ
ブレードバッテリー(LFP) 主力量産EV 量産中 現行の屋台骨
ナトリウムイオン電池 低価格EV・蓄電 2025年量産開始 コスト削減の切り札
全固体電池 高性能EV 2030年以降 次世代技術の保険

この「三本柱戦略」がBYDの強さの根幹だ。一つの技術に賭けず、市場の変化に柔軟に対応できる。

日産:2028年度、横浜工場でパイロットライン建設中

日産は2028年度の実用化を掲げる。横浜工場ではパイロットラインの建設が進んでおり、開発フェーズとしてはトヨタに次ぐ進捗度合いだ。

注目すべき点は目標スペック。体積エネルギー密度1,000 Wh/L(日産公表目標値)はかなり野心的な数値で、コスト目標もkWhあたり75ドルから最終的に65ドルまで下げる計画。方式は硫化物系にリチウム金属負極を組み合わせる構成で、高エネルギー密度と低コストの両立を狙う。

日産はリーフで培ったEVの量産ノウハウを持つ。全固体電池を自社EVに載せるまでの「最後の1マイル」では、この経験が効いてくるだろう。とはいえ、リチウム金属負極はデンドライト(金属リチウムの樹枝状結晶)の問題が残っている。充放電を重ねるうちに金属リチウムが針状に成長し、短絡を引き起こすリスクがある。量産品質の確保はまだハードルが高い。

CATL・中国勢も参戦、2026〜2027年に動きあり

全固体電池の開発は日本勢だけの話ではない。世界最大の電池メーカーCATLは2027年に少量生産を開始し、2030年の量産を計画。BYDとは異なるアプローチで市場を攻める構えだ。

SAICは2026年の準固体電池の量産化を計画しているが、これは完全な全固体電池ではなく液体電解質を一部残す方式。全固体の本格量産は2027年以降が主流の見方だ。Geelyも2026年にプロトタイプ、2027年に1,000台規模のデモを予定。中国勢の動きは速い。

ただし、中国メーカーの「量産」がどの程度のスケールを意味するかは注意が必要だ。年産数百〜数千セルの「量産」と、数万〜数十万台のEVに搭載する本格量産では、技術的な要求水準がまったく異なる。プレスリリースの「量産」と消費者が手にできる時期にはギャップがあると考えるべきだ。

各社の開発タイムライン比較

メーカー 方式 目標密度 パイロット 量産目標
トヨタ 硫化物系 450〜500 Wh/kg(トヨタ公式目標値) 2026年 2027〜2028年
BYD 硫化物系(複合ハロゲン化物) 400 Wh/kg / 800 Wh/L 2024年試作済 2030年以降
日産 硫化物系+Li金属負極 1,000 Wh/L(日産公表目標値) 横浜で建設中 2028年度
CATL 非公開 非公開 2027年少量→2030年
SAIC 2026年(準固体)
Geely 2026年プロト 2027年デモ

で、今EVを買うべきなのか

全固体電池搭載EVが「普通に買える価格」で店頭に並ぶのは、楽観的に見ても2030年、現実的には2031年以降だろう。最初の数年は高級車やフラッグシップモデルへの限定搭載になるはずで、200万〜400万円台の普及価格帯に降りてくるにはさらに数年かかる。

つまり、全固体電池を待ってEVの購入を先延ばしにすると、5年以上待つことになる。その間にも現行のリチウムイオン電池は着実に進化しており、LFP電池のエネルギー密度向上、ナトリウムイオン電池のコストダウンなど、「全固体以外」の技術革新は止まらない。

今買ったLIB搭載のEVは、全固体電池が普及しても問題なく使える。スマートフォンの新機種が出たからといって、手持ちのスマホが使えなくなるわけではないのと同じ理屈だ。

全固体電池を「待つ理由」にする必要はない。今のEVが自分の用途に合うなら買えばいい。日本ではCEV補助金制度が継続しており、充電インフラも年々拡充されている。全固体電池の知識は持っておいて損はないが、購入判断を左右するほどの要素ではない。BYDの全固体電池開発が示すように、メーカー自身も全固体だけに賭けてはいない。ユーザーも同じスタンスでいい。現行EVの電池性能は毎年着実に上がっており、「今のベスト」を選ぶのが合理的な判断だ。

出典

広告
BLADE NOTE編集部
BLADE NOTE編集部

BYD・中国EVの最新ニュースを日本語で配信。海外の1次ソースをもとに、日本の読者に向けた独自記事を毎日更新しています。

BYD・中国EVの最新ニュースを毎日配信中。
フォローして最新情報をチェック!