理想汽車vs日産 – 中国当局が両社を召喚、誹謗中傷問題の行方
中国の自動車業界で異例の事態が起きている。理想汽車(Li Auto)のCEOが東風日産による組織的な誹謗中傷キャンペーンを告発し、中国の規制当局が両社を召喚する騒動に発展した。
Li Xiang CEOがSNSで東風日産を名指し批判
発端は4月11日、理想汽車の創業者兼CEOである李想(Li Xiang)氏がSNS上に投稿した複数の告発だった。東風日産が新型SUV「NX8」の発売に合わせて、大量のアカウントを動員し、理想汽車の主力製品を組織的に中傷したと主張した。
東風日産のNX8は4月8日に正式発売されたばかりだ。
EREV(レンジエクステンダー)とBEVの2種類のパワートレインを用意し、ガイド価格は15万9900元(約340万円)。期間限定で14万9900元からという設定は、理想汽車のエントリーモデル「Li L6」「Li i6」の24万9800元を大きく下回る。価格面で真っ向勝負を仕掛けた格好だ。
理想汽車の法務部門は証拠収集を完了し、公安当局に正式な告発を行ったと発表。「組織的かつ大規模な世論操作は虚偽の世論形成にあたる疑いがある」として、法的措置で首謀者の責任を追及する姿勢を示した。
東風日産は「健全な競争を支持」と間接的に否定
これに対し、東風日産の新エネルギーブランドを率いる王騫(Wang Qian)ゼネラルマネージャーがWeibo上で短い声明を出した。「東風日産は常に業界ルールを遵守し、健全な競争を提唱している」との内容で、ネット工作の具体的な疑惑には直接触れていない。
中国工業情報化部は4月11日にオンライン上の論争を把握し、ただちに両社の担当者を召喚した。CnEVPostが報じたところによれば、当局はこの不正競争の疑いを注視しているという。最終的な調査結果はまだ出ていない。
ゼロサム化する中国NEV市場 — 追い詰められた両社と「世論戦」の先例
表面上はPR合戦に見えるこの対立だが、根底には2026年の中国自動車市場が抱える構造問題がある。NEV市場がインクリメンタルな拡大期から、パイを奪い合うゼロサムゲームへと移行しつつあるのだ。
理想汽車の2025年売上高は前年比22.3%減の1123億元で、営業損失は5億2100万元を計上した。主力のEREV路線で急成長を遂げてきた同社だが、L6やi6が属する20万〜25万元帯は各社が最も力を入れるボリュームゾーンであり、15万元台から切り込む新興勢力が増えるほどポジション維持は困難になる。
東風日産が置かれた状況はさらに厳しい。この老舗合弁企業がここ数年投入した複数の戦略NEVモデルはいずれも期待を下回り、ICE車の市場シェアも縮小し続けている。日産本社は2024年に発表した経営再建計画「The Arc」で生産能力の20%削減と9000人規模の人員削減を打ち出した。中国では東風日産の常州工場がすでに稼働率の大幅な低下に直面しており、日本国内の経済メディアでも「中国事業の損切り」シナリオが繰り返し報じられている。NX8の攻撃的な価格設定には、NEV事業を立て直すための最後の勝負という切迫感がにじむ。
こうした追い詰められた市場環境が、SNS上の「世論戦」を生んでいる。中国ではこの手の競合攻撃は珍しくない。2023年には長城汽車がBYDの排ガス不正を告発し、市場監督管理総局が調査に乗り出した前例がある。このケースでは最終的に長城側の主張が退けられ、告発自体が「不正競争行為」と見なされるリスクが浮き彫りになった。
今回、当局が東風日産のネット工作を認定すれば、反不正当競争法に基づく罰金や是正命令の対象となりうる。逆に理想汽車側の告発に根拠が乏しければ、李想CEO個人の信用問題に発展しかねない。仮にネット工作が認定された場合、影響は東風日産にとどまらないだろう。中国NEV市場ではKOL(キーオピニオンリーダー)を活用した販促が常態化しており、「組織的な世論操作」と「通常のマーケティング」の線引きが曖昧なまま放置されてきた。当局が明確な基準を示せば、新興EVメーカー各社の販促手法にも波及することになる。
当局の調査結果は数週間以内に公表される見通しだ。李想CEOが追加の証拠を公開するのか、東風日産がより踏み込んだ反論に転じるのか。両社の次の一手が、この騒動の着地点を左右する。
出典
- Chinese authorities summon Li Auto and Nissan over smear campaign allegations, report says(CnEVPost、2026年4月14日)
- Nissan “The Arc” business plan(日産グローバルニュースルーム)
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