中国「低価格EV標準」構想 – BYDの日本K-Car戦略との交差点NEW
中国のEV市場で、廉価帯の空白をめぐる議論が動き出している。中国乗用車協会(CPCA)の崔東樹(Cui Dongshu)秘書長が、低価格EVの統一規格づくりを業界に提案した。指標とすべきモデルとして名指しされたのが、欧州の「E-Car」構想と日本の軽自動車(K-Car)だ。BYDが2026年夏に日本投入を控える軽EV「RACCO」の存在も、この議論と無関係ではない。
CPCA秘書長が示した「低価格EV標準」構想
崔氏はWeChatへの投稿で、現在の中国EVは「高価すぎるか規制適合性に欠けるか」のいずれかで、日常通勤や高齢層、郡県レベルの未発展市場のニーズに応えきれていないと指摘した。市場全体は伸びているように映る。CPCAの予測では4月のNEV小売販売は約86万台、市場浸透率は60%を初めて超える見込みだ。だが前年同期の90.5万台は下回っており、消費の地肌は決して強くない。
提案の柱は4点にまとまる。車体サイズ・モーター出力・航続距離のコア指標を明確化すること。高齢者や初心者向けに簡素化試験を伴う「C7」運転免許を新設すること。郡県レベル・高齢層向けの購入補助と税優遇を導入すること。そして重点地域で充電インフラ整備を加速すること。いずれも、いまの中国市場で抜け落ちている「最廉価ゾーンの安全な選択肢」を埋めにいく発想だ。
モデルケースとなった欧州「E-Car」と日本「K-Car」
崔氏が参照例に挙げたのは、EUで議論が進む「E-Car」規格と、日本で長年定着してきた軽自動車エコシステムである。日本のK-Carは新車市場の約40%を占め、高齢者や単身者の通勤手段として根付いた。スズキ・ダイハツ・スバルといった独自ブランドを育てたエコシステムとしての側面もある。
| 項目 | 日本 K-Car | 欧州 E-Car(構想) | 中国 低価格EV標準(提案) |
|---|---|---|---|
| 位置付け | 制度確立済み | 立法化議論中 | 業界提唱段階 |
| 車格 | 全長3.4m / 排気量660cc以下 | 全長3.9m級の小型BEV | 未定(コア指標を策定中) |
| 市場浸透率 | 約40% | — | — |
| 免許要件 | 普通免許 | — | 専用「C7」免許を提案 |
中国の未発展地域や高齢層がいま依存しているのが、「老頭楽(laotoule)」と呼ばれる低速EV群だ。製造や販売手続きが不十分なまま流通し、衝突安全性や電装品質に課題があるとかねて指摘されてきた。崔氏の提案は、このグレーゾーンを正規市場に取り込み、海外の成熟例で実証された「低炭素性・基本安全装備・製造コスト」の三角バランスを国内にも持ち込もうという狙いに近い。
BYD RACCOが示す「実践解」と海外専用モデル戦略
業界提案より一歩早く動いたのがBYDだった。2025年10月に日本市場向けの電動軽自動車「RACCO」を発表し、2026年夏の発売を予定している。想定価格は300万円台前半、航続距離は400km前後とされ、軽規格の枠に収めながらBlade Battery搭載で安全性を訴求する構成だ。
RACCOはBYDにとって2台目の「海外専用モデル」にあたる。1台目は2024年5月に投入したメキシコ向けピックアップ「SHARK」で、いずれも短期的に中国国内では販売予定がない。崔氏が「標準化された低価格EVは中国メーカーの海外展開を加速する」と述べたのは、まさにこの方向性を裏書きしている。中国メーカーが現地市場の規格に合わせて専用モデルを起こし、国内で培った低コスト製造を流用する——RACCOはその先行ケースだ。
Dolphin・Seagull級は日本の軽枠に続くのか
RACCOが軽規格に収まる一方、日本では普通車区分の「Dolphin」がBYD最廉価モデルとして363万円〜(CEV補助金後 約234万円〜)で販売中だ。中国本国でDolphinの下に位置するのが「Seagull」で、本国価格は7万元台(約140万円〜)の超廉価ゾーンに沈む。これをそのまま日本に持ち込めば軽自動車市場と真っ向勝負になるが、安全基準・税制・販売チャネルの設計はまったく別物である。
崔氏の提案する「低価格EV標準」が中国国内で制度化されれば、Seagull系モデルは新規格に再適合する形で再設計される可能性が高い。その派生モデルが日本軽規格と摺り合わせ可能なボディ寸法・装備に着地すれば、RACCOに続く第2の日本専用軽EVが生まれる余地も出てくる。少なくともBYDは、中国本国の規格議論と日本のK-Car需要を同じ補助線で見ている数少ないメーカーだ。
現時点で次のRACCO級モデルに関する公式アナウンスはない。ただしCPCAの提案がそのまま政策に反映されれば、中国EVの最廉価層が日本に流れ込む経路は、むしろ整理される方向に進む。
出典
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