EV買い時2026 – 補助金締切とBYD値引きの分岐点
結論は、2026年にEVを買うなら年末に向けて国のCEV補助金が先着順で尽きるリスクが高まる、タイマー付きの判断になるということだ。
対象は経済産業省所管の令和7年度補正予算「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」(CEV補助金)。予算総額は約1,100億円で、前年度(令和6年度補正・1,291億円)からやや減額された。申請受付は2026年3月31日に開始し、次世代自動車振興センター(CEV-PC)と経済産業省は2026年9月4日、受付終了見込みを「令和8年12月上旬〜12月下旬目処」と公表した。BYD「RACCO」が国内軽EV最安値で登場し、ATTO3はフルモデルチェンジ級の改良を終えたいま、価格と補助金と残価の3つが同時に動いている。本稿はこの3点を数字で整理し、買うべき時期の判断材料を示す。
国の補助金、終了目処は12月
まず押さえるべきは「12月上旬〜下旬目処」という表現の重みだ。センターの公表は確定した締切ではなく、「今後の申請状況・予算残額により前後する可能性がある」と明記されている。早まることも、多少延びることもあり得る目安で、カレンダーに書き込める確定日ではない。
さらに重要なのは、センターが具体的な「消化額」「残高」「消化率」を一切公表していない点だ。2026年9月4日時点でも非公表のままで、公開情報は予算総額と終了見込み時期の2つだけ。ネット上では「7月末時点で約72%消化、月間226億円ペースで残り5カ月分」という具体的な数字が出回っているが、これはテスラオーナー系フォーラムの個人による単純計算であり、政府・センターの公式発表ではない。信じて行動計画を立てるのは危うい。
過去実績が示す急減のパターン
公式の消化率が分からない以上、頼れるのは過去の挙動だ。令和5年度補正CEV補助金は予算1,291億円で、2023年8月21日時点の残高は約356億円、わずか1カ月後の9月19日には約305億円まで減少し、2024年1〜2月頃に受付終了という経緯をたどった。年度後半、特に秋から初冬にかけて申請が集中し、残高が加速的に減る傾向が過去にも見られた。今年度も同じカーブを描くなら、12月下旬側に寄るほど枠がない可能性が上がる。
申請方式も見落とされがちだ。申請は書類のセンター到着日順の先着順で、予算に達した前日で受付終了となる。初度登録(新規検査届出)から原則1カ月以内に申請書を提出する必要があり、「契約した」「納車された」ではなく「センターに書類が届いた日」が勝負を決める。ディーラー側の事務処理が1週遅れただけで枠を逃す構造だ。補助金の締切に間に合うかは、納車までの期間でも決まる。→ BYD納期チェッカー
先着順ルールが買い時を狂わせる

ここで注意したいのは、古い情報との混同だ。「予算残高約177億円、10月末目処」という2022年8月の記事が今も検索結果に出てくるが、これは令和3年度補正・令和4年度当初予算の話で、現行(令和7年度補正、終了見込み令和8年12月)とは年度も金額もまったく別物。古い記事の数字を今年に当てはめると判断を誤る。
東京都のZEV補助金は国と別制度で併用できる。都の上限は令和8年7月1日以降登録分からEV最大130万円・PHEV最大115万円に増額されたが、BYDなど中国メーカー車への「メーカー別上乗せ」は25万円から10万円に減額された。BYDのEVは「ベース20万円+給電機能10万円+メーカー上乗せ10万円=計40万円」が目安で、国の15万円と合わせ約55万円の補助が狙える。ただし都の受付は3月31日までと国より長く取れる見込みの一方、国の受付は12月上旬〜下旬に先に閉まる可能性がある。都内在住者は国の枠だけ先に失うという非対称が起きうる。
BYDは補助金15万円に一本化
2026年4月1日以降に登録した車両から、補助額の評価基準そのものが変わった。国産電池の採用や重要鉱物の調達体制といった経済安全保障関連の配点が引き上げられ、いわば国産優遇の色が強まった。結果、BYD「SEAL」は45万円から15万円へ約70%減、フォルクスワーゲン「ID.4」は86万円から46万円へ46%減となった。
一方でホンダ「Honda e」は129万円から130万円、スバル「ソルテラ」は128万円から129万円と小幅に増額、テスラ「モデル3」は127万円を維持した。BYD公式の補助金ガイドでも、現行の国CEV補助金はATTO3・DOLPHIN・SEAL・SEALION6/7・RACCOの全車種で一律15万円と明記されている。下の表で主要モデルの変化を比較する。
| モデル | 見直し前 | 見直し後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| BYD SEAL | 45万円 | 15万円 | -70% |
| VW ID.4 | 86万円 | 46万円 | -46% |
| Honda e | 129万円 | 130万円 | +1万円 |
| Subaru ソルテラ | 128万円 | 129万円 | +1万円 |
| Tesla Model 3 | 127万円 | 127万円 | 維持 |
日経の報道(見出し・リードのみ確認、本文は有料のため未確認)では、BYDは全4車種で増額がなくトヨタとの差が95万円に達するとされ、BYD社長が補助金差について「勝負にならない」とコメントしたと伝えられている。実際の販売にも影響が出ている可能性がある。diamond.jpの比較記事によれば、2025年度のテスラは日本で約1.3万台(前年の約2倍)を売ったのに対しBYDは4,536台。2026年1〜3月はBYDが前年比20〜40%減と失速したと報じられ、補助金見直しの影響が論じられている。待てば補助金が増える側の話ではなく、他メーカーとの差がむしろ開いた、という逆方向の変化だと理解しておく必要がある。
マイナーチェンジ年表で見る値動き

BYD日本のモデルチェンジ・価格改定の経緯を並べると、値下げと値上げが交互に起きていることが分かる。2023年1月31日にATTO3が440万円で発売され、同年9月にDOLPHINが363万円で登場した。2025年4月1日には価格改定があり、ATTO3は440万円から418万円(-32万円)、DOLPHINは「標準仕様」を廃止して新設の「Baseline」299.2万円、「Long Range」は407万円から374万円(-33万円)へ値下げされた。詳細なモデル構成はBYD全車種の価格・スペック比較でも整理している。
2025年10月30日にはSEALの改良モデルが登場し、電子制御可変ダンパーをAWDグレードに追加したうえで価格は2WD 495万円・AWD 572万円へ値下げされた。2025年12月1日にはPHEVの「SEALION 6」が398.2万円(FWD)/448.8万円(AWD)で発売され、2026年上半期の販売を牽引し累計1,254台を記録している。そして2026年7月28日、国内軽EV最安値となる「RACCO」が214.5万〜249.7万円(補助後199.5万円〜)で登場した。
値上げに転じたATTO3 EX
ここで単純な「待てば安くなる」説は崩れる。2026年9月29日に登場した「ATTO3 EX」は、前輪駆動から後輪駆動/AWD化、電池容量は58.56kWhから74.88kWhへ拡大、航続620km、0-100km/hはAWDで4.0秒という大幅なスペック向上と引き換えに、価格はRWD 437.8万円・AWD 487.3万円と、旧ATTO3の418万円より値上がりした。BYDは2025年4月とSEALで値下げ方向、2026年9月のATTO3 EXで値上げ方向という両方のパターンを同じ1年半の中で見せている。モデルチェンジ前の型落ちを「必ず安くなるから待つ」と決め込むのはリスクがある判断だ。
一般論としては、フルモデルチェンジ直前の新車は車両本体価格の10〜15%程度の値引きが相場という業界解説が複数存在し、300万円の車なら30〜40万円以上の値引きが出るケースもあるとされる。決算期(3月・9月)は販売店が登録台数を積みたい時期で、在庫車・モデル末期車への大幅値引きが出やすいという慣行も複数の解説記事で一致している。ただしBYD固有の値引き額を定量的に裏付ける統計は今回の調査では見つかっておらず、ここは一般的な業界慣行からの推測であることを明記しておく。補助金を引いた実質価格で並べると、順位は車両価格の順とは入れ替わる。→ EV価格ランキング2026(補助金後の安い順)
残価36%まで沈む仕組み
型落ちや在庫車を安く買えても、その代償は数年後の下取り額に跳ねて返ってくる。一般的なガソリン車のリセールバリューは3年後で50〜60%程度を維持するのに対し、EVは同期間で36%程度まで下落するケースがあると報告されている。日産リーフの5年落ち残価率は55%、ホンダ シビック(ガソリン車)は82%という比較データもある。なぜEVだけこれほど下がるのか、仕組みを分解すると理由は一つではない。
残価が下がる5つの要因
第一にバッテリー劣化への懸念と、それを客観的に示す指標の不透明性。中古車の買い手は「あと何年使えるか」を確信できず、価格を低く見積もる。第二に、新車購入時の補助金が実質負担額を下げるほど、中古車の割安感が薄れて中古相場も連動して下がる現象。新車が補助金で安く買えるなら、中古を選ぶ動機が弱まるという逆説だ。第三に航続距離・充電性能の技術進化が速く、1〜2年前のモデルが急速に見劣りする。第四にメーカー同士の新車値下げ競争が起きると、中古相場もそれに引っ張られて下がる。第五に中古EVの買い手自体がまだ少なく、充電環境や電池寿命への不安から需要が育っていない。これら5つが同時に働くため、ガソリン車より速く、かつ深く残価が沈む。
BYD個別車種については、査定業者サイトにSEAL 29.40%、SEALION7 29.40%、ATTO3 22.80%、DOLPHIN 22.80%(いずれも5年後想定)という残価率が掲載されている。ただし同サイトは「表示されている残価率は独自の統計分析であり実際の買取価格を保証するものではない」と明記し、算出方法もサンプル数も非開示だ。BYDの日本導入は2023年以降で、5年を経過した実車がほぼ存在しないことを踏まえると、これは実売統計ではなく推定モデルの可能性が高い。数字として見るより、方向感の参考程度に留めるべきだろう。なお現時点の実勢相場では、ATTO3(2023年式・2万km)の買取相場が185.4万〜230.6万円、SEAL(1年落ち)が259.5万〜318.5万円という事例が確認できる。
BLADE NOTEの見立て
ここまでの事実を並べると、「待てば得」という単純な答えは成立しない。補助金という軸では年末に向けて国の枠が先細るリスクがあり、早く動く理由になる。一方でモデルチェンジという軸では、BYDの投入ペースが速すぎて型落ちリスクの方が大きい場面もある。両者は逆方向の圧力であり、どちらを優先するかは車種と購入時期で変わる。
我々の見立てはこうだ。ATTO3 EXのように性能が大幅に上がって値上げされたケースでは、補助金の先細りを待つ理由は薄い。性能向上分を補助金15万円の範囲で相殺できるとは考えにくいからだ。むしろ型落ち在庫を安く買って早めに下取りに出す方が、残価が36%まで沈む前に手を打てる合理的な選択になりうる。反対にSEALやDOLPHINのように値下げと改良が同時に進んできた車種は、次の価格改定(過去の例では4月・10月前後に起きている)を待つ価値がある。実車を見て見積もりを取るなら、最寄りの正規ディーラーを都道府県から探せる。→ BYD正規ディーラー検索
もう一つ指摘したいのは、残価率データの信頼性の低さだ。査定業者の推定値は算出根拠が非開示で、BYDは日本でまだ5年を経た実車がほとんどない。残価が下がるから今すぐ買うべきという主張を、この数字だけで断定的に補強するのは無理がある。確実に言えるのは、国の補助金という制度側の締切は「目処」であって確定ではなく、消化率も非公表という不透明な状態が続いていること。不確実な情報を確実なことのように語る記事には注意した方がいい。東京都のような自治体補助の併用や、BYDの販売データから見える需要の失速傾向も合わせて、車種ごとに判断するのが現実的だ。
日本全体で見ればEV+PHEVのシェアは2026年3月に4.15%と過去最高を更新し、4月は3.27%(前年同月2.18%)まで伸びている。BYD Auto Japanの2026年上半期(1〜6月)国内登録台数は2,334台で前年同期比143%、3年連続の増加だ。普及が進む中でも全体の2〜4%台という少数派であることに変わりはなく、補助金制度の一つの改定が販売台数に直接響くほど市場はまだ薄い。だからこそ、12月の受付終了目処と4月の基準改定という2つの制度変更の間で、どちらを自分の購入計画に組み込むかが、2026年のEVの買い時を左右する。
出典
- 令和7年度補正CEV補助金の概要(自動車整備振興会連合会)
- クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(経済産業省)
- CEV補助金の申請期限と先着順ルール解説(補助金ポータル)
- 令和7年度補正CEV補助金(車両)(次世代自動車振興センター)
- CEV補助金予算の消化状況まとめ(CUBE LINX)
- 2026年CEV補助金 消化ペースに関する投稿(テスカス)
- 令和5年度補正CEV補助金の残高推移(スマートモビリティJP)
- CEV補助金 予算残高に関する記事(2022年)(Car Watch)
- CEV補助金 評価基準見直しとメーカー別変化(レスポンス)
- 補助金ガイド(BYD Japan公式)
- テスラとBYDの日本販売台数比較(ダイヤモンド・オンライン)
- 東京都ZEV補助金の変更点(補助金ポータル)
- 価格改定のお知らせ(BYD Japan公式)
- BYD SEAL 改良モデル発売(Car Watch)
- BYD SEALION 6 PHEV発売と販売データ(スマートモビリティJP)
- BYD RACCO発売(レスポンス)
- BYD ATTO3 EX発売(スマートモビリティJP)
- 新車値引き相場の目安(オートックワン)
- 決算期の値引き交渉術(みんカラ)
- EVのリセールバリュー解説(EVdays)
- EVと中古車残価率の比較(U-CAR Pacific)
- BYD車種別残価率(U-CAR Pacific)
- BYD ATTO3買取相場(オートックワン)
- 日本のEV販売シェアデータ(EVsmartブログ)




