EV自動車保険の保険料はなぜ高い – 2026年データで検証NEW
EVの任意保険は「電気自動車だから一律で高い」わけではない。ガソリン車と同じ型式別料率クラス制度で決まり、車両価格の高さと修理費の高さが結果的に保険料を押し上げている。
2025年8月、ITmedia NEWSがテスラ車の一部型式で車両保険の料率クラスが自家用車最高の「17」に到達したと報じた。同時期、SBI損保をはじめとする複数のネット型自動車保険会社がテスラ車両保険の新規引受を断るケースが相次いでいることも明らかになった。EVの保険をめぐる状況が、静かに、しかし確実に変わりつつある。
何が起きているのか
まず押さえておきたいのは、日本の任意保険に「EV専用の割増料率」という制度は存在しないという点だ。保険料は損害保険料率算出機構(GIROJ)が毎年見直す「型式別料率クラス」によって決まる。これは車種の動力方式ではなく、型式ごとの事故実績・保険金支払実績の統計に基づく仕組みである。
ところが実際には、EVの一部型式でこのクラスが急上昇し、保険料に跳ね返る事例が相次いでいる。ITmediaが報じた個人の実例では、契約更新1回で年間保険料が約119,520円から約178,480円へ、約1.5倍に跳ね上がった。対人賠償クラスは6から7、対物賠償は9から10、そして車両保険は16から17へと、軒並み上昇している。
ネット型保険会社が引受を断る理由
SBI損保など複数のネット型(通販型)保険会社が、料率クラス17に到達した型式について車両保険の新規引受を停止した。ネット型は対面型に比べて審査基準を機械的に運用する傾向が強く、クラス上限に達した型式を一律で除外する対応を取りやすい。結果として、契約者は対面型の保険会社や共済へ乗り換えを迫られることになる。
型式別料率クラスとは何か

型式別料率クラスは、対人賠償・対物賠償・傷害(人身傷害・搭乗者傷害)・車両保険の4項目それぞれについて設定される。自家用普通車・小型車はクラス1〜17の17区分、軽自動車は2025年1月1日の改定でクラス1〜7の7区分に拡大された(改定前は3区分のみだった)。数字が大きいほど、その型式の事故実績・保険金支払実績が悪く、保険料も高くなる。
重要なのは、これがメーカーの自己申告値ではなく、保険会社各社が実際に支払った保険金のデータをGIROJが集計した独立統計だという点だ。「EVは事故を起こしやすい」という主張の裏付けにはならないが、「EVは事故が起きたときの保険金支払額が大きい」ことの裏付けにはなる。両者は似て非なるものだ。
クラス間の保険料較差はおよそ√1.2倍で設計されている。軽自動車のクラス区分が3から7に拡大されたことで、最小クラスと最大クラスの較差は約1.7倍まで開いた。新型式でまだ事故データが蓄積されていない場合は、暫定的にクラス4が一律適用される仕組みになっている。発売直後の新型EVの保険料が「意外と普通」に見えるのは、この暫定措置のためであることが多い。
なぜEVでクラスが上がりやすいのか
要因は大きく3つに整理できる。第一に車両価格そのものが高く、車両保険の支払額が大きくなりやすいこと。第二に、事故時の修理費が高額になりやすいこと。第三に、認定修理工場のネットワークがガソリン車に比べてまだ薄く、修理単価や部品供給の面で割高になりやすいことだ。事故を起こす頻度の問題ではなく、事故1件あたりの支払額の問題である。
数字で見る保険料差
米国Insurifyが2026年に公表したデータでは、全年式平均でEVの年間保険料はガソリン車より42%高い。EV平均は年間3,159ドル、ガソリン車平均は2,218ドルだった。ただし2024年以降に登場した新型モデル同士に絞って比較すると、差は18%(年間約501ドル)まで縮小する。Insurifyはこの縮小傾向について、原因が事故率ではなく修理費・部品供給網・車両価格にあると分析している。新型ほど修理体制が整い、部品の流通も安定してくるためだ。
米国の数値をそのまま日本の等級・料率クラス制度に当てはめることはできないが、「差の要因が事故の起こしやすさではない」という構造は日本にも通じる。以下は米国データの整理だ。
| 比較軸 | 全年式平均 | 2024年以降の新型のみ |
|---|---|---|
| EV年間保険料 | 3,159ドル | 非公表(差分のみ公表) |
| ガソリン車年間保険料 | 2,218ドル | 非公表(差分のみ公表) |
| EVとの差 | +42%(約941ドル) | +18%(約501ドル) |
日本国内では、20等級・30代・年間走行距離5,000km以下・車両保険500万円付帯という条件例で、一般的なEVの年間保険料は39,000円〜68,000円程度という試算がインズウェブ系サイトで示されている。これはあくまで一定条件下の試算値であり、型式・年齢・等級によって大きく変動する点は留意したい。
型式によって天と地ほど差がある
同じ「EV」というくくりでも、型式ごとの実態はかなり異なる。テスラModel 3の一部型式は車両保険クラスが最高の17に達しているのに対し、日産リーフは12前後という情報がある(この数値はGIROJの公式検索ツールでの一次確認ができておらず、二次情報源の言及にとどまるため参考値として扱いたい)。BYD ATTO3を日本で5年保有した場合の維持費は保険込みで年間約293,091円という試算も見られるが、前提条件の詳細が不明で、こちらも要検証の域を出ない。
| 車種 | 車両保険料率クラス(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| テスラ Model 3(一部型式) | 17(自家用車最高) | ITmedia報道、対人7・対物10も上昇 |
| 日産リーフ | 12前後とされる | 二次情報のみ、一次未確認 |
| BYD各型式 | 非公表 | GIROJ検索での確認を推奨 |
この数字の並びだけを見ると「テスラが特別に悪い」ように映るが、それは正確な理解ではない。テスラの車両保険クラス上昇は、ギガキャストと呼ばれる一体成形ボディの構造上、事故時の板金修理が困難で、対応できる認定工場が限られていることが大きい。EV全般の問題というより、テスラという特定メーカーの製造方式に起因する側面が強い。この点は、BYD全車種の価格・スペック比較を確認する際にも意識しておきたい違いだ。
バッテリー損傷という別枠のリスク

EVの保険を語るうえで避けて通れないのが、駆動用バッテリーの損傷リスクだ。バッテリーは車両価格の最大50%を占めるとされ、損傷すれば修理ではなく「全損」判定に直結しやすい。米国のデータでは、主流EV(Tesla Model 3、Hyundai Ioniq 5、Kia EV6等)のバッテリーパック単体交換費は10,000〜18,000ドル、工賃込みで12,000〜20,000ドルとされる。大型車・トラック系では15,000〜25,000ドルに達する例もある。バッテリーパックの修理方法は業界標準化されておらず、多くの場合「修理」ではなく「交換」か「全損」の二択になっている点は、バッテリー技術ガイドで解説した構造とも関係が深い。
日本国内でも高額修理の実例は珍しくない。テスラ車のバッテリー不具合で交換見積り230万円が提示され、下取りも拒否された例。モデルYの後退時破損で修理費約370万円(車両価格約520万円に匹敵)という例。約10cmのへこみで見積り約80万円という例まで報告されている。テスラ車のバッテリー交換費用相場はModel 3/Yで約100万円〜160万円、Model S/Xの大型バッテリーでは200万円を超えるケースもあるとされる。
専用特約の登場と、まだ残るグレー部分
こうした事態を受け、三井住友海上の「EV補償特約」や東京海上日動の「電動車両専用補償」など、高電圧バッテリー・モーター・インバーターといったEV特有部品の事故・火災・水没を対象とする専用特約が近年登場している。一方で「バッテリー単体の損害は約款上除外」と明記する保険会社も一部に存在し、契約内容によって補償範囲が大きく異なる。契約前に約款の除外条項まで確認する手間は、ガソリン車のときより明らかに増えている。
BYDが選んだ別の道
中国系EVも日本参入当初、一部のネット型保険会社で車両保険への加入を断られる、あるいは対人賠償のみしか引き受けてもらえないという問題に直面した。この課題に対応する形で、BYD Auto Japanは自社提携の「BYD e自動車保険」をSBI損保と共に立ち上げた。引受保険会社は東京海上日動・損保ジャパン・SBI損保の3社体制で、対人・対物・人身傷害・車両保険に加え、タイヤ・ホイール・バンパー・ドア・ドアミラー・ガラスを対象とする独自特約「BYD eプレミアムセレクト」を付帯できる。BYD関連のニュースでも今後の動向を追っていきたい部分だ。
個人ブログや掲示板の報告によれば、修理代が350万円を超えると新車交換となる車両保険の保険料は概算で年9万円程度とされる。この数値は単一の二次情報にとどまり、等級・年齢・型式などの前提条件が不明なため参考値扱いにとどめるべきだが、少なくとも「入り口で断られる」問題への対応策としてメーカー自身が保険商品を用意した意味は大きい。テスラが料率クラス上昇によって保険入手性の問題を「後から」抱えたのとは対照的に、BYDは参入時点の課題を制度設計で先回りして潰しにいった格好だ。
BLADE NOTEの見立て
EVの保険料問題は、突き詰めれば「事故の起こしやすさ」ではなく「事故1件あたりの支払額」の問題である。この整理を誤ると、EVそのものへの過剰な忌避感につながりかねない。GIROJの型式別料率クラスは独立した統計データであり、恣意的な割増ではない。だからこそ、クラスが上がる型式には上がるだけの合理的な理由があると見るべきだ。
ただし、テスラとBYDの明暗は今後のEV保険市場を占ううえで示唆的だ。テスラはギガキャストという先進的な製造技術を選んだ代償として、修理インフラの整備が後手に回り、料率クラスと保険入手性の両方で摩擦を抱えている。対してBYDは、参入初期の引受拒否という壁にぶつかった段階でメーカー主導の保険商品を用意し、リスクを制度側で吸収する道を選んだ。技術の先進性と保険制度への適応は、必ずしも両立しないということだろう。
もう一つ指摘したいのは、エコカー割引の限界だ。三井住友海上やあいおいニッセイ同和損保が提供する3%前後の割引は、新車登録後13ヶ月以内の初回契約に限られることが多く、更新時には適用されない。EVの車両保険料上昇分を相殺できるほどの効果はなく、割引制度としては象徴的な意味合いが強い。今後、EV専用の修理工場網や部品供給体制が拡充されれば、料率クラスは是正されていくはずだが、それには数年単位の時間がかかる。当面は、契約前に対象型式の料率クラスと補償範囲をGIROJの検索ツールや保険会社の約款で個別に確認する作業が、EV購入者にとって欠かせない手間になる。
出典
- 型式別料率クラスの仕組み~2025年1月1日以降~(損害保険料率算出機構)
- テスラ車両保険クラス上昇・引受拒否をめぐる報道(ITmedia NEWS)
- EV vs. Gas Car Insurance Cost Report 2026(Insurify)
- BYD e自動車保険 よくあるご質問(SBI損保)
- BYD e自動車保険のご案内(BYD Auto Japan)
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