EV研究解説

FAIR-OPAP-C/M:EV急速充電の公平配分アルゴリズム解説

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FAIR-OPAP-C/M:EV急速充電の公平配分アルゴリズム解説

急速充電ステーションでの電力配分を題材にした論文がarXivで公開された。テーマは「公平な分配」。複数のEVが同時に充電器に並んだとき、誰にどれだけ電気を渡すかを瞬時に決めるアルゴリズムを2種類提案している。

この話が面白いのは、経済学で長年研究されてきた「公平に分ける」理論をEV充電の現場に持ち込み、しかも300台が同時に並んでも1ミリ秒未満で答えを返す軽さで実装した点にある。最適化ソルバを積まないシンプルな計算で済むため、充電器本体に入っている小さなコンピュータでも動かせる設計だ。

論文タイトル Fairness-Guaranteed Online Power Allocation Policies for EV Fast Charging Stations
著者 Can Berk Saner, Yong-Sheng Soh, Antonios Varvitsiotis
公開日 2026年5月15日
分野 arXiv eess.SY(システム制御)
論文URL arxiv.org/abs/2605.15750

急速充電器の「電力の取り合い」という問題

商業施設や高速道路サービスエリアに並ぶ急速充電器は、契約電力や送電網の制約から、ステーション全体の出力上限が各ポートの定格合計より小さく設計されることが多い。例えば150kWのポートが4基あっても、ステーション全体の上限は400kW、といった具合だ。論文ではこれを「オーバーサブスクライブ構成」と呼ぶ。会員数より席の少ないジムのようなもので、全員がいっぺんに来ると全員分の電力は足りない。

中央の充電ステーションの容量よりも、4台のEVが要求する電力の合計の方が大きいオーバーサブスクライブ構成を示す図

この状況で必要になるのが、誰にどれだけ電気を渡すかをリアルタイムで判断するソフトウェアだ。雑に分配すれば、先着のEVが上限を独占して、後から来た車は細い電流でしか充電できない。逆に均等に割ると、バッテリー残量が高くて少ししか受けられない車にまで電力が回り、配電が無駄になる。賢く分ける仕組みがないと、誰かが必ず損をする構造になっている。

提案手法 – FAIR-OPAP-C と FAIR-OPAP-M

論文が提案するのは2種類のアルゴリズム。出力を細かく連続的に上下できる従来型のステーション向けが「FAIR-OPAP-C」、10kWや20kWといった「電力ブロック」を組み合わせて割り当てるタイプのモジュラー型ステーション向けが「FAIR-OPAP-M」。後者は決まった単位の電力モジュールを物理的に切り替える構成のステーションに対応する設計になっている。

もう一つの肝は、車側の充電カーブを事前に知らなくても動く点だ。SoC(バッテリー残量)が上がってくると車が受け取れる電力は絞られていくが、その挙動は車種ごとにバラバラで、実機データを充電器側が網羅的に持つのは現実的ではない。著者らは標準プロトコルから取れる「いま車が要求している電力」だけを入力に使う割り切りで、未知の車種にも対応できる仕組みを組み立てた。

「公平さ」を3つの言葉で定義する

そもそも公平な分配とは何か。論文は経済学から3つの定義を借りてきて、ひとつの枠組みに揃えている。

3台のEVに異なる量の電力が分配される様子と、公平性を表す3つのアイコン(天秤・効率・比例)

一つ目は妬みなし(envy-freeness)。自分の取り分を見て「隣の方がいいな」と思わない状態を指す。EV充電に当てはめれば、自分より後から来た車が自分より多くもらっていない、と感じられる配分のことだ。

二つ目はパレート効率(Pareto efficiency)。誰かを犠牲にしないと改善できない状態のことで、要するに無駄がない。電力が余っているのに誰にも回していない、空きポートが遊んでいる、といったケースを起こさない性質を意味する。

三つ目は比例性(proportionality)。公平に分けたときに、自分の最低限の取り分は保証される性質。並んだ台数で割った最低ラインを下回らない、という安心感に対応する。

経済学の公平分配理論で長年研究されてきたこの3条件を、充電配分の問題に持ち込んで統一的に定式化し、提案アルゴリズムが3条件すべてを満たすことを理論的に保証した。ここが学術側からの主な貢献にあたる。

300台でも1ミリ秒未満で答えを出せる軽さ

評価結果は数字で示されている。EV充電と公平分配の文献から選んだ7つの既存手法と比べて、複数の評価軸で上回った。とくに最適化計算を使う既存手法と比べると桁違いに高速で、300台のEVが同時接続する想定でも処理時間は1ミリ秒を切る。

2手法でスケーラビリティの性質は異なる。FAIR-OPAP-Cは台数が増えてもほぼ比例しか遅くならず、連続的な出力調整を前提にした軽い更新で済む。FAIR-OPAP-Mは電力ブロックの割り当てに伴う組合せ的な処理が入るが、それでも台数増に対して緩やかにしか遅くならない設計に抑えられている。

この処理の軽さは、現場の充電器に内蔵された小型コンピュータでリアルタイムに動かせる水準を意味する。クラウドに問い合わせる必要もなく、充電器単体で判断を完結できる。停電や通信トラブルで外部サーバが落ちても、現場の制御は止まらない構造に向いている。

BLADE NOTE の視点

日本の急速充電網は、e-Mobility Powerが整備する高速道路網と、商業施設・ディーラー網が並走する形で拡大している。NEXCO3社とe-Mobility Powerなどが90kW以上・複数口化を進めており、最大6口のマルチコネクタ型急速充電器も増えてきた。この規模になると、まさに今回の論文が想定するオーバーサブスクライブ環境が日常の現実問題になってくる。

特に効いてくるのが、BYDが日本市場で展開するATTO 3、DOLPHIN、SEAL、SEALION 7、そして2026年内に控えるRACCOの存在だ。BYD車のように車種ごとの充電要求が異なる車両が混在する環境では、車種ごとの要求電力差が配分設計の論点になる。素朴な「先着優先」では公平性の担保が難しく、妬みなし保証付きの配分は、要求差が大きい環境でも理論保証付きで分けられる枠組みとして有効に働く。

一方で実装上のハードルもある。日本のCHAdeMO規格は車側から要求電流を送る方式だが、ChaoJi/CHAdeMO 3.0など次世代規格との実装整合は別途検証が必要だ。論文の数学的保証を現場に落とすには、各社実装との突き合わせ検証が避けて通れない。

それでも、最適化ソルバを積まずに300台を1ミリ秒以下でさばける軽量さは現場価値が大きい。日本の充電インフラ整備が進む中で、メーカー横断で動く配分の設計思想が学術側から先に提示された格好だ。バッテリー技術の現在地と並べて読むと、充電カーブはセル化学と制御に強く依存する一方、配分側はそれを知らずに動ける設計が両立しうると分かる。

出典

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BLADE NOTE編集部
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