ASEAN市場で存在感を増す中国EV – 日本メーカーの牙城が揺らぐ構図NEW
東南アジアの自動車市場で、勢力図が塗り替わりつつある。トヨタとホンダが長年支配してきたASEAN市場に、BYDをはじめとする中国EVメーカーが本格的に切り込み始めた。2026年4月のバンコク国際モーターショー(BIMS)の会場風景と、フィリピンで始まったBYD Shark 6の展開は、その象徴的な動きだ。
バンコクモーターショーが映すタイ市場の転換
EVsmartブログの現地取材によれば、今年のBIMSで顕著だったトレンドは2つある。ミッドサイズEV・SUVの台頭と、コンパクトEVの可能性だ。いずれもこれまで日本メーカーがICE(内燃機関)車で圧倒的シェアを持っていたセグメントにあたる。
タイはASEAN最大の自動車生産拠点であり、「アジアのデトロイト」と呼ばれてきた。トヨタ、ホンダ、いすゞといった日本メーカーが生産・販売の両面で市場を牽引してきた歴史がある。しかしタイ政府のEV振興策「EV3.0/3.5」により、中国メーカーの現地生産が加速。BYDはラヨーン県に工場を構え、Neta、GWM(長城汽車)、Changan(長安汽車)も相次いで生産拠点を設けている。
BIMSの会場でミッドサイズSUVが存在感を放っていたという報告は、中国勢がエントリーモデルだけでなく、利益率の高い中型車セグメントへ本格参入していることを裏付けている。日本メーカーが得意としてきた「手頃で信頼性の高いSUV」という領域に、価格競争力と先進装備を武器にした中国EVが正面から挑んでいる。
BYD Shark 6がフィリピンのピックアップ市場を狙う
一方、フィリピンではBYDのPHEVピックアップ「Shark 6」が市場投入された。CleanTechnicaの試乗レポートによると、全長5,457mm、全幅1,971mmという車体はトヨタ・タコマやフォード・レンジャーより大きく、フルサイズトラックの下限に迫るサイズ感だ。
Shark 6の核となるのはBYD独自の「DMO(デュアルモード・オフロード)」プラットフォームだ。1.5リッターターボエンジンを搭載するが、主動力はあくまで電動モーター。エンジンはバッテリー残量が20〜25%に低下した際の自動始動や、急加速・登坂時の補助として機能する。SOC(充電状態)の閾値は20〜70%の範囲でドライバーが調整でき、牽引やオフロードに備えてエネルギーを温存する使い方もできる。
フィリピンでの実走テストでは、渋滞路中心にEVモードで走行。直線距離約61kmのルートを121kmに延長して走り、終了時のバッテリー残量は約32%だった。カリバト湖沿いの下り坂では回生ブレーキによるエネルギー回収が機能し、長距離走行後でもEV走行可能距離を伸ばせることが確認されている。完全EVのような航続距離への不安がないぶん、ドライバーがシステムの特性を把握しながら走れる余裕があるという評価だ。
「日本車の庭」を切り崩す中国メーカーの戦略
タイのミッドサイズSUVセグメントとフィリピンのピックアップセグメント。この2つに共通するのは、いずれも日本メーカーが長年トップシェアを維持してきた領域だという点だ。
タイではトヨタ・ハイラックスといすゞ・D-MAXがピックアップ市場を二分し、SUVではトヨタ・フォーチュナーやホンダ・CR-Vが定番だった。フィリピンでもトヨタ・ハイラックスが商用・個人の両方で絶大な支持を得ている。中国メーカーはこうした「日本車の庭」に、PHEVやBEVという電動化の切り口で参入している。
BYD Shark 6の戦略は巧妙だ。充電インフラが未整備なASEAN地域では、完全BEVよりもPHEVのほうが現実的な選択肢になる。エンジンを残しつつ電動走行のメリットを訴求するアプローチは、ICE車からの乗り換えハードルを大幅に下げる。舗装路ではクロスオーバー的な洗練された乗り味、未舗装路では電動トルクを活かした安定走行を実現するという評価は、東南アジアの多様な道路環境に合致している。
トヨタ・ホンダのASEAN収益基盤に迫る圧力
ASEANは日本の自動車メーカーにとって、国内市場に次ぐ収益の柱だ。トヨタはタイで年間約80万台、インドネシアで約30万台を生産し、現地販売と輸出の両方で利益を上げてきた。ホンダもタイ・インドネシアを重要拠点と位置づけている。この地域でシェアを削られることは、単なる販売台数の減少にとどまらず、グローバル戦略の根幹に関わる。
間接的な影響は日本国内にも及ぶ。ASEAN向け車両の多くは日本からの部品供給で成り立っており、現地生産台数の減少はサプライチェーン全体に波及する。さらに見逃せないのは価格構造の違いだ。BYD Shark 6のフィリピンでの価格帯は、トヨタ・ハイラックスの上位グレードとほぼ同等でありながら、PHEV機構とADAS(先進運転支援システム)を標準装備する。タイでもBYDのSUVラインナップはトヨタ・フォーチュナーより低い価格帯から展開されており、装備内容で比較すると日本車の割高感が際立つ。BYDのラヨーン工場が本格稼働すれば、タイ生産車をASEAN域内に輸出する体制も整い、価格競争力はさらに増す。
トヨタは2026年に次世代BEVの投入を予定し、ホンダも「0シリーズ」で電動化を進める。ただし、中国メーカーがASEANで築きつつある電動車のエコシステム——現地工場、販売網、アフターサービス——に対して、日本メーカーの電動化対応は速度で劣る面がある。タイの会場でミッドサイズEV・SUVが台頭し、フィリピンでBYDのPHEVピックアップが走り始めた今、2027年に予定されるタイのEV補助金制度改定が次の転換点になる。補助金が縮小されても価格競争力を維持できるかどうかが、中国勢と日本勢の双方にとって真の試金石だ。
出典
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