半導体コスト急騰で中国EVに値上げの波 – BYDの垂直統合が試される
3,000元(約440ドル)——金額だけ見れば小幅だが、長安汽車傘下のNevo(深藍汽車)がSUV「Q07」のLiDAR搭載グレードに踏み切った値上げは、中国EV業界が直面するコスト構造の変化を映し出している。
車載半導体コストの急騰、価格転嫁が始まった
CnEVPostが報じたところによると、Nevoは4月末、Q07のLiDAR搭載バージョン3グレードについて、5月7日生産分から一律3,000元の値上げを発表した。対象グレードの価格帯は15万6,800元〜17万6,800元で、LiDARとHorizon Robotics製J6Mチップ(128TOPS)を搭載し、高速道路ナビパイロットやカスタム駐車支援を備える。2025年10月に発売されたモデルだ。
BYDも4月28日、先進運転支援システム「God’s Eye」のLiDARオプション価格を9,900元から1万2,000元へと20%超引き上げたばかりだ。BYD側はストレージハードウェアのコスト高騰を理由に挙げた。わずか数日のうちに大手2社が相次いで値上げに動いた格好で、業界全体にコスト圧力が広がっていることがわかる。
なぜ今、半導体コストが問題になるのか
車載半導体の供給不安は2020〜2022年のコロナ禍で深刻化し、その後は一時的に緩和していた。しかし足元では新たな逼迫要因が重なっている。
各社がADAS(先進運転支援)の標準搭載を進めた結果、1台あたりの半導体使用量が急増した。車載SoCの平均単価は2023年比で15〜25%上昇しているとされ、LiDARユニットも量産効果で一時500ドル台まで下がったものの、高性能モデルでは依然として800〜1,000ドル前後で推移している。Horizon RoboticsのJ6Mチップは中国国産ADAS向けSoCとしてNevoやBYDなど複数メーカーが採用しており、需要集中がサプライヤー側の価格交渉力を強めている構図だ。
中国のNEV市場は激烈な価格競争のさなかにある。各メーカーは利幅を削ってでもシェアを取りに行く戦略をとってきたが、部品コストの上昇がその余地を圧迫し始めた。スマートドライビング機能はもはや差別化の柱であり、搭載を見送る選択肢は取りにくい。結果として、コスト増を価格に転嫁せざるを得ない構図が生まれている。
BYDの垂直統合モデルは耐性があるか
ここで浮かぶのが、BYDの垂直統合戦略との比較だ。BYDは半導体子会社「BYD Semiconductor」を擁し、IGBTやMCUなど車載チップの一部を内製している。バッテリーセルからパワートレインまで自社で手がけるサプライチェーンの深さは、外部調達に依存する競合と一線を画す。
ただし、BYD自身もGod’s Eyeのオプション値上げに踏み切った事実は見逃せない。垂直統合の範囲はあくまで限定的で、LiDARやADAS向けの高性能SoCはHesai TechnologyやHorizon Roboticsといった外部サプライヤーに依存している部分がある。垂直統合は万能の防御壁ではなく、サプライチェーン全体のコスト上昇には完全に免疫があるわけではない。
それでも相対的な優位性は明確だ。BYDの値上げ幅は「オプション」に限定され、車両本体価格には手をつけていない。一方、Nevoは車両価格そのものを引き上げた。この違いは、コスト吸収力の差を端的に示している。
価格競争と技術コストのジレンマ
中国EV市場の構造的なジレンマがここにある。消費者はスマートドライビング機能を求めるが、それを実現するハードウェアコストは上昇している。メーカーは「安くて賢い」クルマを売りたいが、半導体サプライヤーの価格決定力が強まれば、そのモデルは持続しにくくなる。
長安Nevoのようにチップを全量外部調達するメーカーにとって、選択肢は限られる。値上げして消費者に転嫁するか、利益率を削るか、あるいは機能を簡素化するか。いずれも痛みを伴う。BYDやGeely(傘下のZeekrがチップ開発に投資)のように内製化を進められる体力のあるメーカーとの差は、こうした局面でじわじわと広がる。
日本市場も無縁ではない。BYDはATTO 3、DOLPHIN、SEALなどを日本で販売しており、今後God’s Eyeに相当する先進運転支援機能を日本向けモデルに導入する場合、同様のコスト上昇が価格に反映される可能性がある。中国本土でのコスト構造の変化は、BYDのグローバル価格戦略にも波及しうる要素だ。
今回の値上げは1台あたり数百ドル規模にとどまる。しかし、ADASの高度化が進み、より高性能なチップやセンサーが必要になるにつれ、コスト圧力はさらに増す可能性がある。半導体の調達力と内製化の度合いが、中国EVメーカーの競争力を左右する新たな軸になりつつある。
出典
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