BYD系Denza Z9GT、80%まで6分半の超急速充電——50kW主流の日本との落差
10%から80%まで、わずか6分半——。BYDのプレミアムブランド「Denza(テンザ)」が欧州で発表したステーションワゴン型EV「Z9GT」の充電性能は、既存のEVの常識を塗り替える水準にある。パリで行われた欧州メディア向けデモでは公称値とほぼ一致する充電速度が実証され、技術の成熟度を裏付けた。
Flash充電の実力——LFPで実現した極超急速
Z9GTが搭載するのは、BYD独自の最新LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーだ。容量は122.5kWhと大型で、トライモーター版のWLTP航続距離は600km、後輪駆動版は800kmに達する。
充電性能の数値は従来機を大きく上回る。10%から70%まで5分、97%まで9分。充電開始直後は約50秒ごとに10%ずつ回復し、通常は急激に速度が落ちる80%以降も300kWを維持する。マイナス30℃の極寒環境下でも20%から97%まで12分で到達するという。
現行の急速充電EV、たとえばポルシェ・タイカンやヒョンデ・アイオニック5でも10%から80%に約20分を要する。Z9GTはその3分の1以下の時間で同じ充電量を達成しており、数字の上では世代が違う。
充電インフラも自前で——欧州3000カ所計画
速く充電できるクルマがあっても、対応する充電器がなければ意味がない。BYDはその課題を自ら解決する道を選んだ。今後12カ月で欧州に3000カ所の「Flash充電ステーション」を建設する計画を発表している。中国国内ではすでに5000カ所以上が稼働中だ。
設備にも工夫がある。T字型の充電設備は重いケーブルを吊り下げ式にし、車両のどちら側からでも接続できる設計とした。電力供給は定置型LFPバッテリーと系統電力を組み合わせ、1本のケーブルで最大1.5MW(1500kW)を出力する。系統電力だけに頼らず蓄電池をバッファとして使うことで、電力網への負荷を抑えつつ超高出力を実現する仕組みだ。
CHAdeMOの限界と日本市場の現実
日本の急速充電規格CHAdeMOは、最新のCHAdeMO 3.0で規格上400kWに対応する。しかし、国内に設置されている急速充電器の大半は50kW級にとどまり、90kW以上の高出力器すらまだ少数派だ。経済産業省は2030年までに充電インフラを30万口まで拡充する目標を掲げているが、現状の設置数は約3万基で、その多くが50kW以下の普通〜中速充電器だ。Flash充電が前提とする数百kW〜MW級の出力環境とは、大きな隔たりがある。
仮にBYDが日本でFlash充電ステーションを展開するとしても、CHAdeMOとの互換性、電力契約の問題、設置場所の確保といったハードルは高い。北米ではテスラ発のNACS規格が事実上の標準となりつつあるが、日本はCHAdeMOを維持しながらNACSとの共存も模索するという複雑な状況にある。充電規格が乱立する中で、MW級の超高出力充電をどの規格で受け入れるかという議論自体がまだ始まっていない。
11万5000ユーロの高級車、だが本質は技術の先行投入
Z9GTの欧州価格は11万5000ユーロ(約1850万円)。ポルシェ・タイカン スポーツツーリスモの10万7500ユーロをも上回る強気の設定だ。中国国内では5万ドル(約780万円)以下で販売されており、関税や輸送コストが上乗せされた結果とはいえ、価格差は大きい。
車両としても0-100km/h加速2.7秒、デジタルサイドミラー、後輪を逆回転させて車体を横にスライドさせる縦列駐車機能、冷蔵コンパートメントなど、先進装備を惜しみなく詰め込んだ。ただし、BYDにとってZ9GTの最大の役割は台数を稼ぐことではなく、Flash充電技術を実車で実証し、充電インフラとセットでブランドの技術力を欧州市場に印象づけることだろう。
BYDはこの充電技術を今後、より廉価なモデルにも展開する方針を示している。Blade Batteryで培ったLFPの大量生産ノウハウと、車両から充電器まで垂直統合で押さえるBYDの戦略は、各市場の充電インフラ整備の速度目標を引き上げる圧力になる。日本では、CHAdeMO 3.0の400kW対応器がいつ量産段階に入るかが、この技術格差に対する最初の回答になるだろう。
出典
- Denza Z9GT brings BYD’s Flash charging to Europe(InsideEVs)
- 充電インフラ整備促進に向けた指針(経済産業省)
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