バッテリー技術

日本触媒、中国でLiFSI年産1万トン増設 – EV用電解質の需要急増に対応

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日本触媒、中国でLiFSI年産1万トン増設 – EV用電解質の需要急増に対応

リチウムイオン電池の性能を左右する電解質で、日本の素材メーカーが中国市場での存在感を強めている。日本触媒が中国・湖南省の合弁会社でLiFSIの大規模増設に踏み切った。

日本触媒が湖南福邦で年産1万トンの増設を決定

日本触媒は、中国の合弁会社・湖南福邦新材料有限公司(湖南福邦)において、LIB用電解質LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、商品名:イオネル)の製造設備を増設すると発表した。増設規模は年産1万トン。EV用途に加え、ESS(電力貯蔵システム)向けの需要拡大に対応する。

LiFSIは、従来広く使われてきたLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)に代わる次世代電解質だ。熱安定性が高く、低温環境下でもイオン伝導性を維持できる。電池の長寿命化や急速充電性能の向上に直結する素材であり、CATLが2024年に発表した神行バッテリーでもLiFSIの添加が採用されたとされる。

なぜLiFSIの需要が急増しているのか

背景にあるのは、中国EV市場の質的な変化だ。販売台数の拡大フェーズを経て、バッテリー性能の差別化競争が激化している。航続距離の延長、充電時間の短縮、寒冷地での性能維持。こうした課題にLiFSIは直接的な解を提供する。

800Vアーキテクチャを採用する車両が増え、5C充電対応セルの開発が進む。高電圧・大電流に耐える電解質が不可欠になった。LiPF6は水分や高温に弱く、分解によるガス発生のリスクがある。LiFSIはこの問題を大幅に軽減できるため、ハイエンドEVからミッドレンジまで採用が広がりつつある。

EV以外の追い風もある。中国では再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、ESSの設置が急増中だ。蓄電用バッテリーには10年以上の長寿命が求められる。サイクル特性に優れたLiFSIとの組み合わせは合理的で、EV+ESSの二重需要が電解質市場の構造を変えている。

項目 LiFSI LiPF6
熱安定性 高い(200℃以上) やや低い(60℃付近で分解開始)
低温特性 良好 低温でイオン伝導性低下
耐水性 高い 水分で分解しやすい
コスト 高い(低下傾向) 安価
用途 高性能EV・ESS向け 汎用LIB全般

コスト面ではLiPF6に分があるが、量産拡大によりLiFSIの価格は下落傾向にある。年産1万トン規模の増設は、コスト競争力の改善にも直結する。

LiFSI市場の競争環境と日本触媒の立ち位置

LiFSI市場では中国の天賜材料(Tinci Materials)が最大手で、年産数万トン規模の生産能力を持つ。国内勢では関東電化工業もLiFSI事業を展開しており、日本触媒を含む日系メーカーは品質面での差別化を武器に市場を開拓してきた。世界のLiFSI需要は2025年時点で年間5万トン前後とされ、2030年には10万トンを超えるとの予測もある。この成長市場で年産1万トンの増設は、日本触媒がシェア拡大に本腰を入れた判断といえる。

世界のLIB市場は中国が圧倒的なシェアを握るが、素材レベルでは日本メーカーが強みを持つ分野が残る。高純度LiFSIの合成には精密な化学プロセス技術が必要で、品質のばらつきは電池性能に直結する。日本触媒は化学メーカーとしての技術蓄積を武器に、中国現地での生産体制を構築してきた。

合弁という形態も戦略的だ。中国ではバッテリーサプライチェーンの国産化圧力が強まっており、外資単独での事業展開にはハードルがある。湖南福邦を通じた現地生産なら、CATLやBYDといった大手への安定供給を約束しやすい。

素材の競争力が最終製品の競争力になる

中国EV市場ではBYDのBlade Batteryに代表されるLFP陣営と、NMC系の高エネルギー密度路線が併存している。いずれの電池化学でもLiFSIの添加は性能改善に有効とされ、正極材の種類を問わない横断的なアップグレード手段になっている。

日本の化学メーカーが中国EV市場の成長を取り込むルートは、完成車ではなく素材にある。日本触媒の増設判断は、電池セルや完成車では存在感が薄い日本勢が、サプライチェーンの上流で確実にポジションを取りにいく動きだ。年産1万トンという規模が、この市場への本気度を物語っている。

出典

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BLADE NOTE編集部
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