BEV 90%時代は来るのか – 中国・日本・欧州の2040年シナリオを比較
2040年、中国の新車市場でBEVが90%を占める——。北京で開催された「智能電動車発展フォーラム」で、清華大学の欧陽明高教授が示した予測は、EV市場の将来像をめぐる議論に改めて火をつけた。だが同じ2040年を見据えても、中国・日本・欧州で描くシナリオはまるで違う。3地域の数字を突き合わせると、その温度差が浮かび上がる。
欧陽教授が描く中国のBEVロードマップ
4月11〜12日に北京で開催された同フォーラムで、中国科学院院士でもある欧陽教授は段階的な市場シェア予測を提示した。CarNewsChinaの報道によると、2030年にNEV乗用車シェア70%超(BEV対PHEV比率7:3)、2035年に80%超(同8:2)、そして2040年には80%超を維持しつつBEVが9:1の圧倒的優位に立つという見通しだ。
根拠として挙げたのは純電気駆動のエネルギー効率だ。グリーン電力の活用効率において、BEVは水素車の2倍、合成燃料の内燃機関車の4倍に達する。この効率差がPHEVやレンジエクステンダー式EV(EREV)の衰退を決定づけたと欧陽教授は論じた。PHEVやEREVはすでに下降トレンドに入っているとの認識だ。
商用車についても強気の見方を示している。NEVシェアは2030年に50%超、2035年に60%超、2040年には70%超。NEV総保有台数は2040年に3〜3.8億台に膨らみ、グリーン電力消費比率は2035年に65〜70%に到達する。こうなれば「新エネルギー車」は名実ともにグリーンな存在になる、というのが教授の主張だ。
日本と欧州はどこまでBEVに振り切るのか
中国の強気シナリオに対し、日本の現在地はかなり遠い。日本自動車販売協会連合会(JADA)の統計を基にした業界推計では、2025年のBEV販売台数は約12万台の見込みで、新車販売に占める割合は約3.5%にとどまる。台数ベースでは日産サクラなど軽EVが約4割を占め、「まず軽から」という独自の普及パスをたどっている。
日本メーカーのアプローチも一枚岩ではない。トヨタはマルチパスウェイ戦略を掲げ、BEV・HEV・FCVを並行開発する。ホンダは2026年から北米で0シリーズを投入し、日産は全固体電池の2028年実用化を目標に据える。政府目標では2035年に新車販売の100%を電動車(HEV含む)にする方針だが、BEV単体の数値目標は明確に設定されていない。仮に2040年のBEV比率を推計すれば、楽観的に見ても30〜50%程度というのが多くのアナリストの見方だ。
欧州はどうか。EUは2035年にICE新車販売を事実上禁止する規制を採択済みだが、合成燃料(e-fuel)搭載車には例外を認めた(2023年3月EU理事会決定)。ドイツを中心に揺り戻しの動きもあり、2040年にBEVが90%に達するかは不透明だ。欧州自動車工業会(ACEA)が公表する市場見通しでは、2035年時点でBEV比率60〜70%程度とする見方が多く、中国の想定とは20ポイント以上の開きがある。
| 指標 | 中国(欧陽予測) | 日本(推計) | 欧州(業界予測) |
|---|---|---|---|
| 2030年 BEV比率 | 約50% | 10〜15% | 35〜45% |
| 2035年 BEV比率 | 約65% | 20〜35% | 60〜70% |
| 2040年 BEV比率 | 約90% | 30〜50% | 75〜85% |
| PHEV/EREVの位置づけ | 下降トレンド | 当面は主力級 | 縮小傾向 |
全固体電池とバッテリー安全性——技術面の変数
BEV比率を左右する最大の変数は電池技術の進化だ。欧陽教授は全固体電池について慎重な立場を取った。界面副反応など科学的課題が残っており、300Wh/kgの全固体電池は2030年末までに登場する可能性はあるものの、「マーケティングの道具にすべきではない」と警告している。
一方で中国の電池産業は着実に地歩を固めている。昨年の新規特許出願の44%を中国が占め、硫化物電解質の国内生産能力は2万トンを突破。価格はトン当たり2000万元から100万元未満へと急落した。研究と量産の両面で中国勢が先行している構図だ。
安全性の面では、欧陽教授は3つの転換点を挙げた。2014年の工業情報化部によるバス向け三元系電池の使用停止、2020年のBYDによるLFPブレードバッテリー発売、そして今後導入される「非燃焼・非爆発」性能を要求する新安全基準。特にブレードバッテリーは、LFP(リン酸鉄リチウム)は乗用車に使えないという業界の通説を覆し、BEV普及の技術的障壁を一つ取り除いた。
90%シナリオの前提条件
欧陽教授の予測が実現するには、いくつかの前提が必要だ。グリーン電力の供給拡大、充電インフラの整備、そしてバッテリーコストの継続的な低下。中国はこれらすべてで政策的に推進力を持つが、地方都市での充電環境や寒冷地での航続距離低下といった課題は残る。
日本ではCHAdeMO協議会の集計によると急速充電器が約1万基、普通充電器が約3万基で、人口あたりのインフラ密度で中国に大きく後れを取る。CHAdeMO規格の高出力化(現状90kW級から150kW超へ)も道半ばだ。こうしたインフラの差が、そのままBEV普及速度の差に反映される。
欧陽教授の「BEV 90%」は中国固有の条件——巨大な内需市場、強力な産業政策、垂直統合されたサプライチェーン——を前提としたシナリオであり、そのまま他地域に当てはめることはできない。ただし、エネルギー効率でBEVが他のパワートレインを圧倒するという事実は地域を問わない。違いが出るのは「いつ、どのペースで」移行するかだ。トヨタが全固体電池の量産に踏み切る2027〜28年、EUのICE販売禁止が発効する2035年——これらの節目で各地域のBEV比率がどう動くかが、次の答え合わせになる。
出典
- Pure Electric Vehicles (BEVs) to Dominate 90% of Market by 2040, Top Chinese Expert Predicts(CarNewsChina、2026年4月11日)
- European Automobile Manufacturers’ Association(ACEA) — 欧州EV市場見通し
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