BYD Formula S発売 価格18.99万元でModel3を下回るNEW
BYD傘下の高級ブランド「方程豹(Fang Cheng Bao、略称FCB)」は2026年9月16日、新型セダン「Formula S」と、シューティングブレーク仕立ての「Formula S GT」を中国市場で正式発売した。
Formula Sの価格は18.99万元(約28,000ドル)から、Formula S GTは21.99万元(約32,300ドル)から。テスラ「Model 3」の中国価格(23.55万元〜)より最安構成で約7,000ドル安い水準に着地した。
予約価格から最大4万元値下げ、何が起きたのか
方程豹は2026年8月20日から両モデルの予約受付を開始していた。この時点でメディアが伝えていた想定価格帯は23万〜28万元。ふたを開けてみると、実際の発売価格はFormula Sが18.99万〜22.99万元、Formula S GTが21.99万〜23.99万元となり、最大4.01万元、率にして約17.4%の値下げとなった。
方程豹はこれまでオフロードSUV「豹5」「豹8」を軸にしたブランドだった。2023年6月の発足時点ではハードコアな四駆イメージが強く、セダン参入は今回が初めて。都市型EV「钛(Tai)」系に続く3本目の製品ラインとして、Formula Sは方程豹のイメージを大きく広げる一台になる。
値下げの規模だけを見ると「予約時の煽り価格から現実的な水準に着地させた」という単純な話にも読める。ただしこの後に触れる価格構成や競合の顔ぶれを踏まえると、これは最初から想定していた着地点に見せかけた、計算済みのマーケティングだった可能性が高い。
ボディは2種類、Cd値0.22のリフトバックと0.25のワゴン
Formula Sは全長5,060mm×全幅1,967mm×全高1,483mm、ホイールベース2,960mmのリフトバック型セダン。空気抵抗係数(Cd値)は0.22で、量産セダンとしてはかなり優秀な部類に入る。Cd値は数字が小さいほど空気の壁を切り裂きやすいことを意味し、同じバッテリー容量でも高速巡航時の電費(電力消費率)に直結する。0.22という数字は、テスラModel 3(Cd値0.219前後とされる)とほぼ並ぶ水準だ。
Formula S GTは全長5,025mm×全幅1,967mm×全高1,458mmとやや低く短いシューティングブレーク(ワゴンに近いクーペ的シルエット)で、Cd値は0.25。ホイールベースは共通の2,960mmで、プラットフォームを共用していることがわかる。海外メディアの一部は、GTのシルエットについて「Denza Z9GTコンセプトの市販版に近い」と指摘している。
デザインコンセプトは「Life Metal Aesthetics」。フロントはチーターの俊敏さを意識したヘッドライト形状、リアは水平基調の「インフィニティ」テールランプでまとめられている。
グレード構成と航続距離を数字で見る

Formula Sは駆動方式・サスペンション・電池容量の組み合わせで実質7グレード展開になる。すべてBYD公表値(CLTCモード)で、第三者による独立検証は今回確認できていない。
| グレード | 駆動 | サス | 電池容量 | CLTC航続 | 価格(元) |
|---|---|---|---|---|---|
| Formula S 730km | RWD | DiSus-C | 76.744kWh | 730km | 189,900 |
| Formula S 900km(A) | RWD | DiSus-A | 92.093kWh | 900km | 209,900 |
| Formula S 900km(M) | RWD | DiSus-M | 92.093kWh | 900km | 209,900 |
| Formula S 750km(A) | AWD | DiSus-A | 92.093kWh | 750km | 229,900 |
| Formula S 750km(M) | AWD | DiSus-M | 92.093kWh | 750km | 229,900 |
| Formula S GT 850km | RWD | DiSus-A/M | 92.093kWh | 850km | 219,900 |
| Formula S GT 730km | AWD | DiSus-A/M | 92.093kWh | 730km | 239,900 |
注意したいのはCLTC(中国の測定基準)の航続距離が、日本のWLTCや旧JC08より数値が大きく出やすい点だ。同じ92kWh級のバッテリーで「900km」という表示を見ても、日本基準に置き換えれば600km台後半〜700km台前半程度に収まる可能性が高い。BYDの日本仕様車(SEALやATTO 3など)のWLTC値との比較でも、この種の基準差は毎回発生している。中国EV全体の航続距離表記を横断的に比較したい場合は、中国EVメーカー一覧で各社の傾向も参照できる。
電池容量が76.744kWhと92.093kWhの2種類に分かれ、価格差は2万元。単純計算だと15kWh強の増量に対して2万元、1kWhあたり約1,300元というコスト感になる。BYD自社製「ブレードバッテリー」による垂直統合を踏まえれば、この単価は他社セルを外部調達するブランドより低く抑えやすい構造だと考えられる。
DiSus-Mとは何か 磁気粘性ダンパーの仕組みを分解する
今回の目玉のひとつがサスペンションの3段階展開だ。エントリーの「DiSus-C」は電子制御ダンパーのみのシンプル仕様、中間の「DiSus-A」はデュアルチャンバー式のエアサスペンション、そして最上位が「DiSus-M」という磁気粘性流体(MRF)ダンパーになる。
磁性粒子入りオイルで減衰力をミリ秒単位で変える
DiSus-Mの中身は、鉄などの磁性微粒子を混ぜたオイル(磁気粘性流体)をダンパー内部に封入した構造だ。ダンパーにはコイルが仕込んであり、電流を流すと磁場が発生する。磁場がかかると、オイル中の磁性粒子が瞬時に鎖状に整列し、オイルの粘度そのものが上がる。粒子がバラバラの状態なら柔らかい減衰、鎖状に固まれば硬い減衰、というように、機械的な弁の開閉ではなく磁場の強さだけで減衰特性を連続的に変えられるのがこの技術のポイントだ。
BYDの主張によれば、この切り替えは電気信号ベースのためミリ秒単位で完結する。路面の凹凸をセンサーが検知してから減衰力を変えるまでのタイムラグが、機械式のバルブ切り替えより短くなる、という理屈になる。ただしこの応答速度について第三者機関による独立計測データは今回のリサーチでは見つかっていない。あくまでメーカーの技術説明として受け止める必要がある。

DiSus-A(デュアルチャンバーエア)は空気バネの高さと減衰の両方を可変にする方式で、快適性と積載性(車高調整)に強みがある一方、応答速度ではDiSus-Mに一歩譲るとされる。エントリーのDiSus-Cはエア機構を持たないぶん軽量・低コストだが、可変幅は狭い。価格差(DiSus-CとDiSus-A/Mの間で2万元)は、このサスペンション構成の違いがそのまま反映された数字と見てよい。
興味深いのは、Formula S GTの一部グレードで「DiSus-A/M」と併記されている点だ。これは同一グレード内でどちらかを選べる、もしくは仕様地域によって振り分けられる可能性を示しているが、詳細な選択条件は今回のソースからは特定できなかった。
パワートレインとフラッシュチャージ、数字の中身
RWDモデルのモーター出力は245kW(329馬力)または300kW(402馬力)。AWDモデルは前後モーター合計490kW(657馬力)に達する。バッテリー容量は下位グレードが76.744kWh、上位グレードが92.093kWhと、いずれも小数点まで公表されている点はBYDらしい細かさだ。
「1,000馬力」報道は別モデルの数値、混同に注意
一部海外メディアはFormula Sを「テスラModel S Plaid級の1,000馬力」と紹介しているが、これは今回発売されたFormula S / Formula S GTの数値ではない。1,000馬力・800V電気アーキテクチャ・3モーターAWDという構成は、2026年末以降に控える上位派生「Formula SL」のスペックであり、今回のニュースとは別モデルだ。この2つを混同した記事は少なくないので、スペックを引用する際は「どのグレードの話か」を必ず確認したい。
急速充電については「10%→70%で約5分」「10%→97%(または90%)で約9分」という数値が複数メディアで報じられている。BYDが「フラッシュチャージ」と呼ぶ急速充電技術によるものとみられるが、ピーク充電出力(kW値)そのものは今回のリサーチでは確認できなかった。一次資料であるBYDのプレスリリースでの裏取りが望ましい段階だ。バッテリー技術全般の基礎知識はバッテリー技術ガイドにまとめている。
テスラ Model 3・小米SU7との価格比較

方程豹自身がFormula Sの競合として名指ししているのが、テスラ「Model 3」と小米「Xiaomi SU7」だ。三者を並べると、Formula Sの価格戦略の狙いが見えてくる。
| 項目 | Formula S(最安) | Tesla Model 3 RWD(中国) |
|---|---|---|
| 価格 | 189,900元(約28,000ドル) | 235,500元〜 |
| 航続(CLTC) | 730km | 非公表(本記事執筆時点で未確認) |
| 駆動 | RWD | RWD |
| サスペンション | DiSus-C(電子制御) | 非公表 |
小米SU7についてはメディア各社が「主要競合」として名前を挙げているものの、比較に足る具体的な価格・スペックの一次情報は今回のリサーチでは確認できなかったため、上表には含めていない。数字を確認できないものは並べない、という姿勢を崩さないほうが結局は読者のためになる。
米国メディアの試算では、AWD版Formula SとポルシェTaycan AWD(米国価格13万ドル超〜)の間には約96,000ドルの価格差があるとされる。ただしこれは中国国内販売価格と米国販売価格という異なる市場・異なる関税環境・異なる装備水準を単純比較したものであり、購買力平価や現地の付加価値税、輸送コストは考慮されていない。数字のインパクトだけを鵜呑みにするのは危うい。
それでも「中国国内価格ベースでModel 3を約7,000ドル下回る」という一次的な事実そのものは動かない。BYDはセル・IGBT半導体・モーター・制御ソフトウェアの内製率が約75%とされ、この垂直統合がFormula Sの価格を支える要因としてメディアで繰り返し指摘されている。
方程豹というブランドの文脈
方程豹は2023年6月にBYDが立ち上げた高級ブランドで、当初はオフロードSUV「豹5」「豹8」中心の硬派なラインナップだった。Formula Sはそこから一気に路線を広げ、都市型セダン市場に切り込む3本目の製品群という位置づけになる。オフロード専業から始まったブランドが、空力を突き詰めたリフトバック型セダンを出す、という流れ自体が方程豹のポジション拡張を象徴している。
上位には、バタフライドアを備えるスーパーカー「Formula X」も控えている。方程豹側は「市販版はコンセプトカーと80%程度同一になる」とコメントしており、Formula Sの高性能イメージづくりにも一役買っている構図だ。豹(オフロード)・钛(都市型)・Formula(高性能セダン/スーパーカー)という3系統が揃うことで、方程豹はBYD傘下でも幅広いレンジをカバーするブランドになりつつある。
海外展開については、方程豹の車種が輸出時に「Denza」ブランドへ付け替えられた前例(豹5→Denza B5)があることから、Formula S / Formula S GTも将来的に「Denza Z」系として欧州市場に投入される可能性を指摘する海外メディアもある。ただしこれは推測の域を出ていない。日本市場についても、2026年9月時点でBYDおよび方程豹側から方程豹ブランド車種の日本導入に関する公式発表・代理店の言及は確認されていない。BYD JAPANが展開するATTO 3、DOLPHIN、SEAL、SEALIONといった既存ラインナップとは別軸の話であり、BYDカテゴリーで今後の続報を追っていきたい。
BLADE NOTEの見立て
今回の値下げ幅(最大17.4%)は、単なる「予約時の煽り価格からの調整」では説明がつかない規模だと見ている。方程豹はオフロードブランドとして立ち上げた経緯があり、都市型セダンで小米やテスラと殴り合うには、ブランド力ではなく価格で殴るしかない。18.99万元というエントリー価格は、そのポジショニングの答えだと考える。
気になるのはDiSus-Mの扱いだ。磁気粘性ダンパーという技術自体は目新しいものではなく、海外の高級車ブランドでも採用例がある。ただしBYDはこれを20万元台前半のセダンにまで下ろしてきた。ここで独立検証データがまだ存在しない以上、「本当にミリ秒単位で機能しているのか」「量産品質でどこまで再現性があるのか」は、納車後のユーザーレビューが出そろうまで判断を保留すべきだと考える。スペック表の数字だけで評価を確定させるのは早計だ。
もうひとつの論点は「900km」という航続表示の使い方だ。CLTC基準であることは記事中で明記されているとはいえ、価格訴求と並べて大きく打ち出す手法は、日本や欧州の実航続感覚とのギャップを広げるリスクがある。方程豹がもし本気で海外展開を狙うなら、早い段階でWLTC相当の実測値を自ら出す方が、長期的なブランド信頼には有利に働くはずだ。
そして「Formula SL」との数値混同がこれだけ拡散している事実自体も見過ごせない。1,000馬力という強烈な数字が先に独り歩きし、実際に買えるFormula S / Formula S GTの実像がぼやけている。方程豹にとっては話題性というメリットもあるが、値下げで話題を取れるのは今回が最後ではないだろうから、次の一手は価格ではなく実測データとグレード情報の整理された開示に来ると見ている。
出典
- BYD Fang Cheng Bao launches Formula S(CnEVPost)
- BYD undercuts Tesla with new Formula S EV starting at $29,000(Electrek)
- BYD targets Xiaomi SU7 and Tesla Model 3(CarNewsChina)
- BYD’s FCB Formula S(New Atlas)
- FangChengBao Formula S sedans, Formula X supercar(paultan.org)
- BYD’s 1,000-hp electric(Yahoo Autos/Autoblog)
- BYD’s Fang Cheng Bao Formula S undercuts Porsche by $96,000(Tech Times)
- BYD、高級EVブランド「方程豹」発表(日本経済新聞)
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