バッテリー技術

デンソーの高効率ヒートポンプが文科大臣表彰 – EV冬場の航続距離問題に終止符を打てるか

4分で読める
デンソーの高効率ヒートポンプが文科大臣表彰 – EV冬場の航続距離問題に終止符を打てるか

冬になるとEVの航続距離が2〜3割落ちる——。BEVオーナーなら誰もが経験する悩みに、日本の部品メーカーが正面から挑んだ技術が国の表彰を受けた。

デンソーが文部科学大臣表彰を受賞した背景

デンソーは2026年度の科学技術分野・文部科学大臣表彰において、科学技術賞(開発部門)を受賞した。受賞テーマは「BEV普及課題を熱解決する高効率ヒートポンプシステム開発」。BEVの冬季航続距離低下と、電池劣化に起因するリセールバリューの低下という2つの課題を、車両全体の熱を統合制御するアプローチで解決した点が評価された。

文部科学大臣表彰は、科学技術に携わる人材の意欲向上と日本の技術水準の底上げを目的とする制度だ。研究開発や理解増進で顕著な成果を収めた個人・チームに贈られるもので、自動車部品の熱マネジメント技術がこの賞を受けた意義は小さくない。

冬場のBEVが抱える熱の二重苦と、デンソーの解決策

ガソリン車はエンジンの排熱を暖房に流用できる。一方、BEVにはエンジンがない。車内を暖めるにはバッテリーの電力を使って電気ヒーターやヒートポンプを動かすしかなく、その分だけ走行に回せるエネルギーが減る。外気温が氷点下に近づけば暖房負荷はさらに増し、航続距離は大幅に縮む。

加えて、リチウムイオン電池そのものが低温環境で性能を落とす。化学反応の速度が鈍るため、充放電効率が低下し、回生ブレーキの回収量も減る。バッテリーを適温に保つための加温にも電力が要るという二重苦だ。実際、ノルウェーの自動車連盟(NAF)が実施した冬季テストでは、多くのBEVがカタログ値から30〜40%の航続距離低下を記録している。

デンソーの技術が着目したのは、この「熱のやりくり」を車両全体で最適化する発想だった。従来は暖房・バッテリー温調・モーター冷却がそれぞれ独立した熱回路で動いていたが、統合制御によってモーターやインバーターから発生する廃熱を暖房やバッテリー加温に回す。いわば車両内部で熱をリサイクルする仕組みだ。デンソーによれば、この統合型ヒートポンプはCOP(成績係数)の向上により、従来のPTCヒーター方式と比較して暖房時の消費電力を大幅に削減できるとしている。

冬場のドライバーを悩ませるフロントガラスの曇りや霜にも効果がある。従来のシステムでは除霜時にヒートポンプの暖房能力が一時的に低下し、車内温度が下がることがあった。統合制御型では走行中にも安定した除霜性能を維持しつつ、車内の快適性を損なわない。冬の高速道路で「暖房を弱めて航続距離を稼ぐか、快適さを取るか」という二択を迫られる場面が減ることになる。

BYDオーナーにとっての意味

デンソーはトヨタグループの主要サプライヤーだが、熱マネジメント部品は複数の自動車メーカーに供給されており、技術の波及効果は広い。BYDは自社のe-Platform 3.0で独自の熱管理システムを構築しており、ワイドレンジヒートポンプやダイレクト冷却・加温方式のバッテリー温調を採用している。現時点でデンソーとBYDの間に直接的な部品供給関係は公表されていないが、デンソーが実証した「車両全体の熱統合制御」という設計思想そのものは、メーカーを問わずBEVの冬季性能を底上げする方向性を示している。

BYDのATTO 3やDOLPHIN、SEALといった日本販売モデルでは、冬場に実電費が夏場の6〜7割程度まで落ちるという報告がオーナーコミュニティで共有されている。BYD自身もヒートポンプを全車標準装備としているものの、外気温がマイナス10℃を下回る環境ではヒートポンプの効率が急落し、PTCヒーターへの依存度が高まるという課題は各社共通だ。デンソーの統合制御技術は、こうした極低温域での暖房効率低下を緩和する手段として、業界全体が参照しうるベンチマークとなった。

もう一つの焦点がリセールバリューだ。電池の劣化速度はバッテリー温度管理の精度に大きく左右される。適切な温度帯を維持できれば劣化は抑えられ、中古車としての価値が保たれる。日本自動車販売協会連合会の調査ではBEV購入をためらう理由として「リセールバリューの不安」が上位に挙がっており、この点での技術的な進歩は、結果としてEV普及のハードルを一つ下げることになる。

出典

広告
BLADE NOTE編集部
BLADE NOTE編集部

BYD・中国EVの最新ニュースを日本語で配信。海外の1次ソースをもとに、日本の読者に向けた独自記事を毎日更新しています。

BYD・中国EVの最新ニュースを毎日配信中。
フォローして最新情報をチェック!