ASEAN各国のEV優遇策を比較 – 中国メーカーの重点市場はどこへ
ベトナムがEV向け特別消費税の優遇措置延長を決めた。ASEAN域内ではタイ、インドネシア、マレーシアなども独自のEV振興策を打ち出しており、中国EVメーカーにとっての「次の主戦場」がどこに移りつつあるのか、各国の政策を横断的に整理する。
ベトナム、特別消費税の優遇を延長
36氪の報道によると、ベトナム政府はBEV(バッテリー式電気自動車)に対する特別消費税の優遇措置を延長する方針を固めた。同国ではVinFastが国産EVの旗手として生産を拡大する一方、BYDやCheryといった中国勢も販売網の構築を急いでいる。税制面の後押しが続くことで、ベトナムのEV市場は当面、価格競争力のあるメーカーに有利な環境が維持される見通しだ。
ベトナムは登録料の免除措置もBEVに適用しており、消費者にとってはガソリン車との価格差が縮まる構造になっている。人口約1億人、平均年齢が若く、二輪車からの乗り換え需要も大きい。実際、BYDは2024年にハノイとホーチミンにショールームを開設し、Cheryもディーラー網の整備を進めている。
ASEAN主要国のEV優遇策を一覧比較
| 国 | 主な税制優遇 | 補助金・インセンティブ | 中国メーカーの動き |
|---|---|---|---|
| タイ | 物品税を最大2%に引き下げ(通常8%) | BEV購入補助(最大15万バーツ)、現地生産条件付き | BYD・GWM・NETA・Changan等が工場稼働 |
| インドネシア | 奢侈税免除、VAT軽減 | 現地生産EVにインセンティブ集中 | BYD・五菱(Wuling)が現地生産 |
| ベトナム | 特別消費税の優遇延長、登録料免除 | VinFast主導だが外資にも適用 | BYD・Cheryが販売拡大中 |
| マレーシア | 輸入税・物品税免除(2027年まで) | CKD・CBUともに免税対象 | BYD・Chery・GWMが参入 |
| フィリピン | 関税引き下げ | 優遇措置は限定的 | 参入はまだ限定的 |
※各国の政策データは各国政府の公表資料および現地報道に基づく。タイのEV3.5政策はタイ投資委員会(BOI)、インドネシアの奢侈税免除は同国財務省の規則に準拠している。
一見してわかるのは、タイとインドネシアが「現地生産」を条件にした手厚い優遇を敷いているのに対し、ベトナムとマレーシアは輸入車にも比較的開放的な税制を維持している点だ。中国メーカーの戦略は、この違いによって明確に分岐している。
タイ一極集中から分散へ
2023年から2024年にかけて、中国EVメーカーのASEAN進出先はタイに集中していた。BYDがラヨーン工場を稼働させ、GWMやNETAも生産拠点を構えた。タイ政府のEV3.5政策は購入補助と物品税減免を組み合わせた強力なパッケージで、「ASEAN最大のEV市場」の地位を築いた。
ただし、ここにきて風向きが変わりつつある。タイ政府は補助金の条件として現地生産台数の縛りを厳格化し、2024年後半からは中国メーカーの在庫過多も報じられた。安売り競争が加速し、利益率が確保しにくくなっている。タイとインドネシアではトヨタやホンダなど日系メーカーがガソリン車で販売シェアの過半を握ってきたが、中国EVメーカーの価格攻勢はこの牙城を直接脅かしている。タイではBYD ATTO 3がトヨタbZ4Xの半額近い価格帯で販売され、日系各社はEVラインナップの拡充を迫られている状況だ。
その結果、「タイ一本足」から複数国に分散させる動きが加速した。BYDはインドネシアでの工場建設を進め、ベトナムやマレーシアでも販売チャネルの拡充に動いている。
インドネシアとベトナム、それぞれの狙い
インドネシアは人口2.7億人を擁するASEAN最大の市場だが、EV優遇策は現地生産メーカーに重点を置いている。ニッケル資源を武器にバッテリーのサプライチェーンごと誘致する戦略で、韓国・現代自動車やCATLの工場進出が先行した。中国完成車メーカーにとっては参入障壁がやや高いが、市場規模の大きさは無視できない。
一方、ベトナムは輸入EVにも税制優遇が適用されるため、工場を持たなくても参入しやすい。人口規模、所得の伸び、二輪から四輪への移行期という市場環境も魅力的だ。今回の特別消費税延長は、VinFastだけでなく中国勢にとっても追い風になる。
マレーシアは市場規模では劣るものの、2027年まで延長された免税措置と右ハンドル市場という特性から、タイに次ぐ生産拠点としての可能性がある。Geely傘下のProtonとの連携もあり、中国メーカーには地の利がある。
重点市場は「人口×政策の開放度」で決まる
各国の政策を並べると、中国EVメーカーの重点市場は単純な補助金の多寡ではなく、「人口規模×政策の開放度」で決まりつつあることが見えてくる。タイは依然として最大の拠点だが、インドネシアは生産拠点として、ベトナムは販売市場として、それぞれ異なる位置づけで重要度を増している。
BYDを例にとれば、タイで生産した車両をASEAN域内に輸出する「ハブ戦略」を軸にしつつ、インドネシアでは現地生産による税制メリットを狙い、ベトナムでは輸入販売で市場を開拓するという三層構造が見えてきた。日系メーカーが数十年かけて築いたASEANの販売・サービス網に対し、中国勢は各国の政策差を利用した多面的な参入を図っている構図だ。
Counterpoint Researchなど複数の調査会社は、ASEAN全体のEV販売台数が2025年に前年比30〜40%程度の成長を遂げると予測している。中国メーカー各社がどの国にどれだけのリソースを振り向けるか——その判断を左右するのは、結局のところ各国政府の政策の持続性と予見可能性だ。ベトナムの優遇延長は、少なくとも同国市場に対する中国メーカーの投資判断を後押しする材料になった。
出典
- 越南延长电动汽车特别消费税优惠政策(36氪)
- タイEV3.5政策についてはタイ投資委員会(BOI)公表資料に基づく
- ASEAN各国のEV優遇策は各国政府発表および現地報道(Bangkok Post、Jakarta Globe等)を参照
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