BYD車にAIアシスタント搭載 – セレンスxUIが変える車内体験
「目的地周辺でおすすめのレストランを探して。あと、到着予定時刻も教えて」——こうした複数の要望を一度の会話でこなせるAIアシスタントが、BYDの車内に搭載される。
車載AI技術を手がけるセレンス(Cerence)は、BYDとのパートナーシップを拡大し、LLM(大規模言語モデル)ベースの車載AIアシスタントを提供すると発表した。基盤となるのは、セレンスが自動車向けに独自開発したエージェント型AIプラットフォーム「セレンスxUI」だ。今春、BYDの「ATTO 2 DM-i」に初搭載され、その後グローバルモデルへ順次展開される。
セレンスxUIとは何か
セレンスxUIは、従来の音声コマンド型システムとは設計思想が異なる。最大の特徴は「会話スレッド」への対応だ。従来の車載音声認識では、「エアコンを25度にして」「近くのコンビニを探して」といったリクエストをその都度個別に発話する必要があった。xUIでは複数のやり取りをまたいだ文脈を保持できるため、前の発話内容を踏まえた自然な会話が成り立つ。
たとえば「今日の天気は?」と聞いた後に「じゃあ傘、後部座席に置いたっけ?」と続けても、AIは天気の話題から文脈をつないで応答できる。運転中にウェイクワードを繰り返したり、要件を一から説明し直す手間がなくなる。助手席の同乗者と話すような感覚。それがxUIの目指す車内体験だ。
なぜATTO 2 DM-iが最初なのか
初搭載モデルにATTO 2 DM-iを選んだ理由は明快だ。ATTO 2はBYDのグローバル戦略車であり、PHEVモデル(DM-i)は中国国外の市場を強く意識した車種にあたる。フラッグシップではなくボリュームゾーンの車種にまずAIアシスタントを載せる——BYDが車載AIを「プレミアム機能」ではなく「標準体験」として普及させる意図の表れだろう。
セレンスの発表によれば、同社はもともとBYDと長年にわたる協業関係を持つ。今回はその延長線上にあるが、LLMベースのエージェント型AIへの移行は技術的に大きな転換点だ。従来の音声認識エンジンとは異なり、xUIはユーザーの意図を推論し、複数のタスクを自律的に処理するアーキテクチャを採用している。
xUIは日本語の曖昧さを理解できるか
気になるのは日本市場への展開だ。セレンスは日本の自動車メーカーとも取引実績があり、日本語の音声認識・自然言語処理には一定の知見を持つ。xUIのLLM基盤が多言語対応であれば、日本向けBYD車への搭載に技術的な壁は高くない。
ただし、日本語の車載AI対応には独自の難しさがつきまとう。敬語のレベル調整、地名・施設名の正確な認識、そして「あのへんのいい感じの店」のような曖昧な指示への対応。こうした日本語特有のニュアンスをどこまで拾えるかは、LLMのチューニング次第だ。
現時点でBYD Auto Japanが販売する日本向けモデルにxUIを搭載する公式発表はない。しかし、BYDが日本市場でATTO 3、DOLPHIN、SEAL、SEALION 7、そして2025年秋発売予定のRACCOとラインナップを拡充するなかで、ソフトウェア体験の差別化は避けて通れないテーマになっている。日本で販売される輸入EVの多くが基本的な音声操作にとどまる現状では、LLMベースのAIアシスタントは明確な差別化要素となる。
車載AIの競争軸が変わる
車載AIアシスタントの競争は、すでに「音声でエアコンを操作できます」という段階を過ぎた。テスラはChatGPTとの連携を模索し、メルセデス・ベンツはMBUXにLLMを統合済み。中国勢ではNIOの「NOMI」が早くから車載AIのキャラクター化で先行してきた。
BYDがセレンスと組んでxUIを導入する狙いは、自社開発にこだわらず車載AI専業ベンダーの技術を活用し、迅速にグローバル展開する点にある。自前主義のテスラやNIOとは対照的なアプローチだ。BYDの2025年通期販売台数は約427万台。このスケールでxUIが展開されれば、セレンスにとっても過去最大級の実装事例となる。
ATTO 2 DM-iでの搭載開始は今春。グローバル展開のスケジュール詳細はまだ明らかにされていない。
出典
- Cerence Expands Partnership with BYD for LLM-Powered In-Car AI Assistant(Cerence プレスリリース)
- BYD関連ニュース(Response)
BYD・中国EVの最新ニュースを毎日配信中。
フォローして最新情報をチェック!