具身知能とは何か – 理想L9 Livisが示すAI×自動車の新潮流
クルマが「考え、動く」時代が来る。中国のEV・EREV大手、理想汽車(Li Auto)が5月15日に正式発売・納車開始を予定している新型「L9 Livis」は、同社が掲げる「具身知能(Embodied Intelligence)」を量産車に実装する最初のモデルとなる(36氪報道)。
具身知能——AIが「身体」を持つということ
具身知能は、近年の中国テック・自動車業界で急速に注目を集めているコンセプトだ。従来のAIがテキスト生成や画像認識といったソフトウェア上の処理に留まるのに対し、具身知能はAIが物理世界のセンサーやアクチュエーターと結びつき、リアルタイムで環境を認識・判断・行動するところに本質がある。
Level 4自動運転やSDV(Software Defined Vehicle)との違いも整理しておきたい。自動運転は「運転操作の自動化」に焦点を当て、SDVはソフトウェア更新で車両機能を拡張する設計思想を指す。具身知能はこれらを包含しつつ、車内空間の環境制御、乗員の状態認識、自然言語による対話まで含めた「車両全体の知能化」を志向する点でスコープが広い。
L9 Livisの狙い——ファミリーSUVにAIを載せる理由
理想汽車は2025年通期で50万2,000台を販売した(同社IR資料)。家族向け大型SUVという明確なセグメントで中国市場をリードし、L6、L7、L8、L9と揃うラインナップはすべてEREV(レンジエクステンダーEV)を採用している。
その最上位モデルであるL9に「Livis」の冠をつけて投入する戦略は明快だ。フラッグシップに最新技術を載せ、ブランドの技術イメージを引き上げる。価格帯が高いぶん、先進機能へのコスト転嫁がしやすい。そしてファミリー層という実需ユーザーにAI体験を届けることで、「具身知能は実験室の概念ではなく、日常で使える技術だ」と示す意図がある。従来のL9からのアップグレード幅も大きく、ハードウェアの刷新だけでなく、車載AIの統合レベルが世代的に異なるモデルになるとされる。
中国EV各社の「知能化」競争——具体的に何をしているのか
具身知能を掲げるのは理想汽車だけではない。各社の取り組みを並べると、アプローチの違いが見えてくる。
- XPENG:NGP(自動運転支援)の都市部展開を加速。2024年にVolkswagenとEEAプラットフォームの技術提携を締結し、欧州市場向けにもADAS技術をライセンス供与する体制を構築している。
- NIO:自社開発チップ「神璣NX9031」を搭載し、ADASの内製化を推進。2025年発売のET9では、車両側の演算能力を大幅に引き上げた。
- BYD:「整車智能」を掲げ、自社SoC開発に注力。2025年1月に発表した「天神之眼」システムでは、城市NOA(都市部自動運転支援)を20万元以下のモデルにまで展開する方針を示した。
背景には、BEV・PHEVの価格競争が限界に近づいている事情がある。航続距離やバッテリーコストでの差別化が難しくなるなか、ソフトウェアとAIの統合度合いが次の競争軸になるという認識が業界全体に広がっている。中国政府も2025年以降、具身知能やヒューマノイドロボットを国家戦略として重点支援する方針を打ち出しており、自動車は「最も大きな具身知能プラットフォーム」として位置づけられつつある。
もっとも、コンセプトと量産車での実装には隔たりがある。L9 Livisが実際にどこまでの機能を搭載するのか——車内カメラによる乗員認識、大規模言語モデルを活用した音声対話、リアルタイムの走行環境モデリングなど——具体的なスペックは5月15日の発表を待つ必要がある。
トヨタ・ホンダのSDV戦略と中国勢のスピード差
理想汽車は日本で車両を販売していないが、この動きは日本メーカーの戦略にも直結する。トヨタは次世代SDV基盤「Arene」を2026年以降の新型車から搭載する計画を進め(トヨタグローバルニュースルーム)、ホンダは「ASIMO OS」を2026年の0シリーズ投入に合わせて展開する予定だ。いずれも開発段階であり、中国勢が量産車に具身知能を載せて市場投入するスピードとは1〜2年の差が生まれている。
日本で購入できるBYD車(ATTO 3、DOLPHINなど)にも、OTAアップデートによる機能追加の仕組みはすでに備わっている。たとえばATTO 3では2024年にOTA経由でバッテリープリコンディショニング機能が追加された。中国本土で知能化技術が成熟すれば、日本向けモデルにも段階的に展開される可能性がある。EVを選ぶ基準が走行性能やバッテリーだけでなく、AI体験の質にまで広がる段階に入りつつある。
中国EV市場の競争は「ハードウェアの性能」から「AIの統合体験」へ明確にシフトしている。理想L9 Livisは5月15日に発売・納車が始まる。搭載機能の詳細やユーザーの初期レビューが出そろい次第、BLADE NOTEでも続報をお届けする。
出典
- 理想L9 Livis、5月15日に正式上市・納車開始(36氪)
- 理想汽車 投資家向け情報(IR)(Li Auto)
- トヨタ グローバルニュースルーム(Toyota)
BYD・中国EVの最新ニュースを毎日配信中。
フォローして最新情報をチェック!