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バンコクショー予約データが示す東南アジア市場の勢力図——中国車が日本車の2.5倍

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中国EV: バンコクショー予約データが示す東南アジア市場の勢力図——中国車が日本車の2.5倍
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予約台数で中国ブランドが日本ブランドの約2.5倍——。3月25日から4月5日まで開催された第47回バンコクインターナショナルモーターショーの数字が、東南アジア自動車市場の構造変化を鮮明に映し出している。

12日間の来場者数は179万8312人。2025年のジャパンモビリティショーが101万人だったことを考えると、バンコクショーの集客力は圧倒的だ。コロナ禍直後の2022年が157万人台、2023年に160万人台と推移し、今回ついに180万人に迫る過去最高水準を記録した。

「買うためのショー」が映す市場のリアル

バンコクショーの最大の特徴は、来場者がその場で購入予約を入れる「販売型モーターショー」であることだ。欧米やジャパンモビリティショーがコンセプトカー展示を主体とするのに対し、バンコクでは第1回から約50年にわたって販売併設のスタイルを貫いてきた。2004年にはOICA(国際自動車工業連合会)認定ショーとなっている。

事務局長のジャトロン・コモリミス氏は「タイ人の気質として、ただ見るだけでは納得しないし、ショーにも来ない」と語る。OICA加盟時には販売をやめるよう求められたが拒否したという。

「今はパリサロンでも販売をするようになった。時代が我々に追いついてきた」。この販売型ショーだからこそ、予約台数は消費者の購買意欲を直接反映する。展示車のスペックや未来のビジョンではなく、実際に財布を開く段階でどのブランドが選ばれているか。バンコクの予約データはその答えを突きつける。

中国勢が予約台数で日本勢を圧倒した構造的背景

中国ブランドの予約台数が日本ブランドの約2.5倍に達したという事実は、単なるブームでは片付けられない。背景にはタイ特有の産業構造がある。

タイには自国の自動車メーカーが存在しない。すべてが海外ブランドであり、輸入車には高い関税が課される。一方、タイ国内工場で生産された車両は国産扱いとなり関税がかからない。日本メーカーはこの仕組みを数十年にわたって活用し、タイを「アジアのデトロイト」と呼ばれる一大生産拠点に育て上げた。トヨタ、ホンダ、いすゞなどがピックアップトラックやセダンの生産で圧倒的なシェアを握ってきた。

転機となったのが、2022年にタイ政府が導入したEV振興策「EV3.0」だ。BEVの輸入関税を最大40%減免し、購入補助金も最大15万バーツ支給する内容で、条件として2024年中に輸入台数以上の現地生産を求めた。この制度が中国メーカーのタイ進出を強力に後押しした。BYD、長安汽車(Changan)、哪吒汽車(Neta)、上汽MG(MG)など中国各社はタイに工場を建設し、関税減免の恩恵を受けながら市場を急速に開拓。価格競争力のあるEV・PHEVを武器に、日本車が長年独占してきた市場に食い込んだ。

日本メーカーの「EV空白期間」が招いたもの

今回の予約データが示す格差は、製品の問題でもある。中国メーカーがEVとPHEVのフルラインナップをショーに並べたのに対し、日本メーカーのEV投入は明らかに遅れた。タイの消費者がEVに関心を持ち始めた2022〜2023年の時期に、日本勢が提示できたBEVの選択肢は限られていた。

トヨタはbZ4Xを投入したものの、タイ市場で主力のピックアップトラックやCセグメントSUVのEV版は用意できていない。ホンダのe:N1も販売しているが、中国勢の価格帯と比較すると割高感が否めない。

日本メーカーが「マルチパスウェイ」を掲げてハイブリッドの延長戦を戦っている間に、中国勢はBEVとPHEVの両輪でタイ市場のEVシフトを主導する立場を確立した。

BYDのタイ展開は日本市場とも対照的だ。日本ではATTO 3、ドルフィン、シール、シーライオン7など乗用車8車種を展開しているが、タイではピックアップトラック型のBEVや商用車も含めた幅広いラインナップを投入している。タイで求められる車種構成が日本と大きく異なることが、日本メーカーの既存生産ラインとの競合をより複雑にしている。

もっとも、中国メーカーにとっても課題は山積している。BYDはラヨーン県に大規模工場を稼働させたが、タイ国内のBEV市場全体の成長ペースに対して各社の生産能力が過剰になるリスクが指摘されている。EV3.0の関税減免を利用して輸入した台数以上の現地生産をクリアできなければ、追加関税が発生するリスクもある。サプライチェーンの現地化率はまだ低く、バッテリーセルを中国本土から輸入する構造が続く限り、為替変動や物流コストの影響を受けやすい。アフターサービス網の整備も道半ばで、短期間で市場を獲った中国勢が根を張るには、販売以外のインフラ構築が不可欠だ。

ASEAN展開と日本への波及

タイで生産された車両はASEAN域内に輸出される。中国メーカーがタイの生産拠点を足がかりにインドネシア、マレーシア、フィリピンへと販路を広げれば、東南アジア全体で日本車のシェアが浸食される可能性がある。

日本メーカーにとって、東南アジアは利益率の高い重要市場だ。トヨタやホンダは連結営業利益の相当部分をアジア地域で稼いでおり、ここでの後退は日本国内の部品サプライヤーへの発注減、ひいては国内製造拠点の雇用にも影響しうる。東南アジアの勢力図の変化は、日本の自動車産業全体のサプライチェーンに波及する構造的な問題でもある。

タイ政府は2025年後半にEV政策「EV3.5」の詳細を発表する予定で、現地生産義務の強化が見込まれる。EV3.5の内容次第では、工場稼働率の確保に苦しむメーカーの淘汰が始まる可能性もある。2026年通年のタイBEV登録台数と、各社の工場稼働率が、予約台数という「入口」に続く次の判断材料になる。

出典

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BLADE NOTE編集部
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